スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
「実は事故で怪我をしてしまったせいで今はバレエに関することはなにも……」
「そう、だったの」
ステファニアさんは眉を下げる。
私は憧れのバレリーナにわざわざ気を遣わせてしまっていることに恐縮し、早口に話す。
「でも怪我をして退団を言い渡されたあと、啓一郎さんが励ましてくれて」
「それで結婚まで至ったってわけね」
少し普通と状況は異なるが、その言葉に違いはない。
「ねえ、もし紗雪さえ良ければワタシが講師をしているバレエスクールに見学にでもきてみる? 今は色々あってバレエから離れたいって思ってるかもしれないけど、いつか気が向いたときに」
「……ありがとうございます」
「じゃあ連絡先教えとかなきゃね。さっき言ったことのほかにも、もしかして夫関係で何か迷惑をかけるかもしれないし」
ステファニアさんの心遣いは非常に嬉しかった。
私たちは啓一郎さんと熊沢さんが話し込んでいる横で連絡先交換をする。
スマートフォンにある憧れのバレリーナの連絡先にごくりと唾を飲む。空の上の人だと思っていたので全く現実感がない。
スマートフォンを握る自分の手が汗で滲んでいるのを感じ、自分は興奮しているのだと知る。
そのせいか全身が火照っており、喉が渇いた気がしたため私は近くにいたスタッフが配っていたグラスの飲み物を口にした。
透明な飲み物だったので水だと思い一気に煽ったのだが──。
「うっ」
「紗雪!?」
目の前でふらついた私にステファニアさんが驚きの声を上げる。
隣で話し込んでいた啓一郎さんも「どうした紗雪!」と大きな声で叫ぶのが聞こえる。
喉が異様に熱く感じ、これはお酒だったとわかった時には私の世界はブラックアウトしていた。