スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
私が日本人だからなのか、日本人である医者を主治医として連れてきたのかもしれない。
私は蓮見先生に尋ねる。
「……先生…………私の足は…………きちんと治るんでしょうか」
「それは────」
先生は言葉に詰まっていた。
それでも私は捲し立てるように口を開く。
「私はもう一度、あの舞台に立てるんでしょうか!」
本当は自分でもわかっていた。
なんとなく、複雑骨折というのは上手く骨が繋がるために時間がかかるということを。
そして足が元通りになることはないのだと。
ばらばらに壊れてしまったものはもう、初めの状態には戻れないのだ。
それにこの怪我を治療する時間がブランクとなる。
1ヶ月練習をしないだけでも身体の使い方が上手くいかないと言われているのに、それが数ヶ月、はたまた年単位となると──。
「私は──前みたいに踊れますか?」
意を決し、紡いだ言葉は無残にも打ち砕かれる。
「あなたの怪我は治ることは治りますが────前のように現場復帰することは…………おそらく、難しいでしょう」
蓮見先生の告げた言葉に私は絶望した。
私の生涯をかけた夢はここで潰えてしまったのだ。
いつかエトワールとなって、多くの人に自分の踊りを見てほしい。
そして私も大勢の観客が観る舞台の真ん中で踊りたい。
それは数秒にも満たない、たった一瞬の事故で潰えたのだ。
先程まで流れ続けていた涙はもう止まっていた。
涙を流すことできなくなっていた。
そんな私に気を遣ってか、蓮見先生は優しく穏やかに語りかける。
「たしかにあなたは以前のように踊ることはできないかもしれない。けれど、リハビリ次第ではそれに近いまでの状態に回復することが出来る可能性はあるでしょう」
「ほんと、ですか?」
私は顔を上げて蓮見先生の整った顔に目線を送る。
気づけば冷え切った私の手を温かい手が包んでいる。
「ええ、もちろん。私がお手伝いしますよ。あなたが希望を持てるように」
「ありがとう……ございます」