スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
 私が快楽を享受するだけで、結局啓一郎さんは一切手を出してこなかった。
 頭を撫でられて寝かしつけられたから眠ってしまっただけで、最後までしようと思えばいくらでも出来た。
 私も正直そのつもりだった。

 確かに酔いのせいもあるが、彼に全てを捧げたい──その気持ちに嘘はなかった。

 だが彼はやんわりと回避したのだ。

 ごめんという謝罪と、最後までしなかった意味。全然分からない。

 なんとなくそのことに対し、私は不安を覚えた。
 ずきり、と頭に痛みが走る。二日酔いだろう。元々お酒はからきしなのに、一気飲みしてしまったせいだ。

「紗雪、一応コンビニでこれ買っといたけど飲む?」

 そう言って差し出してきたのは『ウコンの活力』だった。私は頷き、キリリと痛みを訴える頭を押さえて飲み干す。

「ありがとうございます」

「ううん、それより動ける?」

 私は寝起きに染みる朝日を感じながらベッドから這い出た。
 啓一郎さんはすでに着替え終わっており、だらしない姿の自分との違いに恥ずかしさを覚える。

「実は朝食を頼んでおいたんだ。もうすぐ届くけど、もし二日酔いで気分良くないんだったら食べなくでもいいけどどうする?」

「あっ、ありがとうございます! 朝食いただきます。あっ、シャワー……」

「そこにあるよ。気になるなら浴びてきな」

 そう言って啓一郎さんが指をさす。
 私はなんとなくいつもと同じ様子の啓一郎さんに少しだけ引っかかりを覚え、駆け足でバスルームへと駆け込んだ。

 ──私は啓一郎さんのことを何も知らないのだろう。
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