スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
しばらくしてシャワーを浴び終えた私がバスルームから出ると、食べ物のいい香りがした。
その香りにお腹が空腹を訴える。
シャワーを浴びたおかげで二日酔いもだいぶ楽になり、私は朝食の並んだテーブルについた。
朝食らしく重くないパンや小さいオムレツ、彩り豊かなサラダなどが並んでいる。私はナイフとフォークでそれらを口に入れる。
「美味しいですね。なんか洋風の食事だと向こうでの暮らしを思い出します」
普段は和食の定番であるお味噌汁やご飯をメニューとしているため、少しだけ懐かしかった。向こうでは常に和食が食べたいと思っていたのに不思議な気分だ。
「たしかにそうだね。……そういえば紗雪って向こうではどんな暮らしをしてたの? こういうことあまり聞いたことなかったよね」
「私はずっとバレエばかりやってたので……あんまりパリの暮らしって感じのことはしてなかったです。あ、でも年末のシャンゼリゼ通りのカウントダウンには毎年参加してましたよ」
話しながら向こうの暮らしを思い出す。
フランスにも四季はあるため気候は日本とあまり変わらなかったが、街中は物騒だった。
人通りの多い道は比較的安全だが、少しそれるだけで犯罪者や浮浪者などがうろうろしており女一人には危険な場所なのだ。
「カウントダウンは1回だけ参加したな。でも年末年始は逆に体調崩す人も多くて、あんまり休みが取れなかったんだよ」
私は「そうなんですね」と相槌を打つ。
「啓一郎さんはパリ暮らしで思い出に残った場所とかイベントとかありますか?」
「うーん、そうだな。パリから1時間くらいかけたジヴェルニーに『モネの庭』っていう睡蓮の花が綺麗な観光名所があるんだけど。それを観に行ったときはすごく感動したな」
「私行ったことないです! いいなぁ、景色の綺麗な場所。そういうところもっと行っておけばよかった……ちょっと今更ながら後悔です」
私は苦笑した。
本当にバレエ一筋だったんだなと、感傷を覚える。
そんな私を見て啓一郎さんは微笑みを浮かべた。
「それじゃあまた俺と一緒に行こうか」
そう言ってくれた啓一郎さんの優しさに喜びとともに────ちくりと痛む心と不安を私は隠していた。