スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
「センパイ、すみません色々と」

 私はその言葉を否定するようにそんなことはないと伝える。
 不器用だけど根は優しい長谷川くんは私に気を遣ってくれたのだろう。足を怪我してバレエ団の退団促された私に対して。

 長谷川くんは自身の両手を強く握りしめたあと、口を開いた。

「センパイ。ちょっと……もう少しだけお話し、いいですか? このあと時間……」

「大丈夫だよ、今日は病院に来るだけだったから」

「それじゃあ」

 そう言って共に立ち上がり、病院外──出入り口のそばにあるベンチまで歩いた。
 途中、長谷川くんが自動販売機でコーヒーを買う。

「センパイ、コーヒー飲めますか?」

「うん、甘いのなら好きだよ」

 そう答えるともう一本購入し、渡してきた。
 悪いと断ろうとするが、無理に押し付けてくるのでお礼を言って受け取る。不器用な優しさに少し心が温かくなった。

 ベンチに座ると太陽の温かさと風の心地よさを感じ、優しく穏やかな気分にさせられる。
 そろそろ春も終わり、この心地よい気候も終わるのだと考えると寂しく思った。

「沙彩、あいつずっと入院しているんですよ」

 私は先ほどからずっと気になっていたことの答えを聞き、納得する。
 沙彩ちゃんはすごく愛らしい女の子だったが、健常な女の子に比べて酷く痩せていた。元気な口調とは裏腹に顔色は青白い。気づいた時には儚く消えてしまいそうなほど。
 だからこそ心配した看護師さんと長谷川さんは沙彩ちゃんを病室へと戻らせたのだろう。
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