スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
「5歳のときに心臓が弱いことが分かって。それでもずっと入院もせず普通に暮らしてたんですが、ここ1年くらいで一気に悪くなって」

「心臓が……」

「身体が小さいので手術をするにしてもそれに身体が耐えられるか分からないって言われたので、今は投薬でのの治療で誤魔化してます」

 幼い少女の悲劇に私は心が凍りついた。

 あんなにも明るく元気でおしゃべりな女の子が──。
 
 心臓に欠陥があるということは当然、死の危険と隣り合わせということ。そんな沙彩ちゃんは病気を感じさせないほど前向きに治療を頑張っている。
 
 それに比べて私はどうか。

 自分の悲劇に絶望し、すべて諦めて生きている──まるで生きる屍だった。

 私は自分を恥ずかしく思った。
 
「でもそろそろ治療だけじゃ難しくなってきて。年内にはたぶん手術をするかどうか決めないといけないと思います。その手術も身体のことを考えれば成功するのは半々で」

「そう、なの……。よければ私も時間あるときにでも沙彩ちゃんのお見舞いにお邪魔してもいい? 迷惑なら遠慮するけど」

「そんなことないです! さっき沙彩も言ってましたが、あいつセンパイにずっと憧れてて。初めてセンパイの踊ってるところ見たあと『あの人誰? 会わせて』って付き纏われたくらいです」

 沙彩ちゃんがそこまで私に憧れていたことに目を丸くする。たしかに沙彩ちゃんの視線は輝きを帯びたものだったが、そこまだとは。

「それじゃあ、またお見舞いにくるね」

「ありがとうございます」

 長谷川くんはそう言って面会希望の出し方や沙彩ちゃんの病室の場所についても教えてくれた。
 沙彩ちゃんのことについて話す長谷川くんはいつにも増して饒舌で。きっとそれだけ沙彩ちゃんのことを愛しているのだなと感じた。
 
 私はずっと一人っ子だったため、兄弟がいることに憧れの感情を抱く。

 ふと、私は思った。
 そういえば啓一郎さんには兄弟はいるのだろうかと。啓一郎さんのご両親や親戚とは面識があったが、兄弟については一言も聞いたことがない。
 そんなことを考えていると長谷川くんは話しを振ってくる。
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