スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
「……センパイはこれからどうするんですか? どこかのバレエ団に所属しようとか思っていたりするんすか?」

「ううん……まだなにも決まってなくて。向こうの関係者の人からこっちでやるならって何人か紹介してもらったりしたけど、少し悩んでて……」
  
 そう。
 私はまだこれからどうするかなにも決めていなかった。帰国してからずっとばたばたしていたり、新婚旅行へ行ったりと忙しかったと理由をつけて後回しにしていたのだ。

 けれど、自分でよくわかっている。

 ……私はなにも考えたくなかっただけなのだと。

 温かな繭の中で庇護されるのは心地がよくて。
 啓一郎さんもゆっくり悩んでと言ってくれたせいか、今の状況に甘んじてしまっていた。
 啓一郎さんはいつも優しい。優しすぎてどんどんだめになってしまうと感じるほどに。

「それじゃあ──」

 長谷川くんが私に顔を向け、意を決したように話す。

「俺の所属してるバレエ団に来てみませんか? センパイなら団のみんなも歓迎してくれます。なにしろあの入るのも難関のオペラ座で学んだ人なんですから」

「長谷川くんの……」
  
 私は呟く。
 たしかに知り合いがいれば心強いと思う。長谷川くんは続ける。

「入団オーディションは夏にあるんですが、見学は団員推薦者は希望を出せばいつでも大丈夫なんで。実際にレッスン受けてる風景とか見て決めることとかもできますよ」

 私はじっと考える。
 そろそろ自分もなにか変わるべきなのかもしれない。長谷川くんの提案はそのきっかけとして理にかなっている。
 私は頷いた。

「うん、是非見学行かせて欲しいな。……あ、でも先に啓一郎さんに相談しないと」

「そうですよね。大丈夫だったら俺に連絡してください。連絡先は昔と変わってないんで」

 そして私たちはバレエ団についての話をし、しばらくして解散した。


 その日、家に帰ってから早速啓一郎さんに相談をしてみると。
 
「…………まぁ、いいんじゃないか」

 少しいつもとは様子が違うような感じはしたが、肯定してくれた。
 そのことに安堵し、さっそく長谷川くんに連絡して。そしてバレエ団の見学へと赴く日時を決めることとなった。
< 50 / 141 >

この作品をシェア

pagetop