スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
 開口一番に発した私の言葉に長谷川くんが息を呑む。どうしてなのかと聞く長谷川くんに練習場で思ったことをぽつぽつと伝えた。

 長谷川くんはそれを聞いて黙ってしまった。
 私はそりゃそうかと内心思う。

 こんな話を聞いてなんで答えればいいのか分かる人なんていないだろう。
 あのとき──怪我をした時と同じくらい自暴自棄になりそうだった。
 くっと下唇を噛む。

「センパイの気持ちは……分かりました。たしかに怪我をしてそんなに日も経ってないのに決めるの難しいっすよね。…………無神経に誘ったりなんてしてすみません」

「ち、違うよ。長谷川くんのせいじゃない。これは全部私自身の気持ちの問題だから。それに誘われたのを了承したのだって私だし」

 私がそう言い募っても長谷川くんは暗い表情をしたままで、申し訳ない気持ちが溢れる。
 自分が切り出した問題なのに、長谷川くんを困らせてしまうだなんて情けなかった。

 私はなんとか場を切り替えようと、明るい声を作って離す。

「それにさ。私、結婚して今は一人じゃないから、なにか不安だったら啓一郎さんに相談できるし。ほら、長谷川くんも会ったでしょ?」

「……そうですね。旦那さんいますもんね」

「うん。ちなみに彼、あの大学病院に勤めてるから、もしかして沙彩ちゃんも知ってるかも」

 沙彩ちゃんは長く病院にいるとのことだし、もしかして顔を合わせたことがあるかもしれない。

 私がそう言うと長谷川くんは──。


「医者なんですね、旦那さん。……どこで出会ったんですか? 日本? それともフランスですか?」

「ええと……フランスで」

 啓一郎さんについての質問を始める長谷川くんに一瞬驚いたがそのまま流れに身を任せて答える。

「担当医、だったんすね。……あの人、たしかに頭良さそうな感じしましたし納得です」

「うん、尊敬できる人だよ……あとすごく優しいからついつい甘えちゃって。……ってなんか惚気みたい……恥ずかしいな」

 啓一郎さんがいないところで彼の話をすることは初めてで、かなり照れを覚える。
 そんな私を見た長谷川くんは少しの間なにか考え込んだあと、間を置いてから話し出しす。

「…………センパイ、旦那さんのこと愛してるんすね」

「…………えっ?」

まるで時が止まったように、私は表情を凍らせた。
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