スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
 考えたことがなかった。
 いや、ずっと考えないようにしていたのだ。

「わたしは……」

 好きだとかの恋愛感情なんて分からない。
 ずっと昔から恋なんてしたことがなかったし、興味すらなかった私は学生時代に告白されても断るばかりで。

 どうしてみんな人を好きになるのだろうと思ったものだった。

 それを言うといつもみんなこぞって『可哀想』だの『子供だね』と馬鹿にされたような気持ちになって、そんなに恋なんていいものなのかと考えたものだ。

 もちろん家族のことや友人のことは好きだ。それだけじゃダメなのか。
 それが今では啓一郎さんの側にいるだけで心臓が高鳴り、彼の一挙手一投足に振り回され続けている。
 顔を近づけられれば赤くなり、バレエで男性ダンサーと密着して踊ることもあったにも関わらず、慣れない子供のように落ち着きを無くしてしまう。

「センパイ?」

 長谷川くんの声が聞こえ、私ははっと顔を上げる。質問にどう答えればいいのか考えている間に心配させてしまったのかもしれない。

 けれど、どうしても言えなかった。
 もし『好き』だと口にすれば、それが真実として心の奥に根付き、私は以前にもまして啓一郎さんに惑わされてしまうだろう。

 啓一郎さんは私のこと一度も好きと言ってくれたことはないのに。
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