スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
「私……好きなんかじゃない。結婚だって好きだったからしたわけじゃなくて──」

「嘘ですね」
  
 自分の気持ちを否定する私を咎めるように長谷川くんは割り込む。真実を見通すかのような鋭い目線にぐっと息を呑んだ。

「オレ、ずっとセンパイのこと見てきたから知ってます。結構我慢強いところとか、普段は素直な割に、たまに強がるとことか」

「そんなことっ」

「だってオレ、センパイのこと好きですから。昔から、もちろん女として」

 一瞬、時が止まったように沈黙が流れる。
 予想外の告白に動揺した私は口をぱくぱくとさせるが、言葉が出てこない。

「見込みがないのなんて分かってます。第一センパイは人妻ですし、オレ略奪愛とかそういうの苦手なんで無理やりどうこうしようと一切考えてないんで。安心してください」

「…………うん、ありがと」
  
 たった今告白をしたというにも関わらず、長谷川くんの様子はクールなものだった。言葉の甘さと態度のクールさという寒暖差に眩暈がしてきそうだった。

 告白には戸惑いが大きく、恥ずかしいだとか嬉しいだとかの感情はついてこなかった。
 けれど自分の気持ちに素直になり、それを相手に伝えることは大変なことに違いない。私はそれが出来ず、ずっと立ち止まっているのだから。

 それゆえに私は長谷川くんのことを大いに尊敬した。

 叶わない恋だと分かっていてもなお、自分の気持ちにけりをつけるためか、はたまたただ想いを伝えたかっただけなのかわからない。
 それでも心が傷つくと分かっていながら自分の中にある真剣な気持ちを届けることは困難なことなのだ。
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