スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
 私は彼にまるで背を押されたように感じた。
 もっと素直になって、自由に生きるべきだと伝えられたような気がした。

 だからこそ、私は長谷川くんの前で嘘をつくことは出来ない。

「ごめんなさい。私────夫のことが、啓一郎さんのことが好きだから。長谷川くんの気持ちには答えられない。だから本当に、ごめんなさい」

「…………頭を上げてください」

 言葉と同時に頭を下げた私に向かって長谷川くんは言う。
 頭を上げて長谷川くんの顔を見ると、何故だかスッキリしたような表情をしていた。

「よかった、センパイがきっぱり振ってくれて。そうじゃなかったらオレ、諦めきれないっすから」

「うん、長谷川くんの真剣な気持ちが伝わってきたから、誤魔化しちゃいけないことだって分かった。……ねぇ、無神経な質問かもしれないから答えたくなかったら答えなくてもいいんだけど…………どうして今告白することにしたの?」

「簡単なことです。オレが諦めたかったから。あと、センパイにはもっと楽な生き方してほしかったから」
 
 楽な生き方なんて、つまり私は楽じゃない生き方をしていると言うことだろうか。
 疑問を抱きながら長谷川くんに視線を向ける。

「あの温泉地のとき、確かにお二人は夫婦だっていってて旦那さんの方は自然だったけど……センパイからはどこかぎこちない感じを覚えたんすよ。だからもしかして二人ってなんか訳ありなのかなって」
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