スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
 昔から俺は人間関係に関しては淡白な人間で、諍いを起こさないように人からどう見えるのか考えながら生きていた。

 そのおかげか周囲から人格者だの物腰柔らかだのと言われるようになっていたが、それは人付き合いを最低限で済ませようと考えていた俺の偽装の姿だった。

 良い評判が経てば、学業や仕事でもなにかと気に入られることが多く、人生計画がスムーズに進むと思っていたからだ。

 そう、すべては仮面であり、俺の心は常に空っぽで満たされてはいなかった。


『今日はありがとね』

『こちらこそ~! またシたくなったら電話して~! 啓一郎くんだったらいつでも歓迎だから。こんなふうにお互い割り切っな関係続けること出来る相手なんてなかなかいないし~』

『うん、じゃあまたよろしく』


 己ながら最低だったと思う。
 女性は基本、欲望を満たすだけの割り切った関係ばかりで、それをお互いに承知できる大人の女性のみを相手にしていた。本当はそれすらも内心面倒でたまらなかったが、男としての生理現象を処理するのにうってつけの存在だけを求めていたのだ。

 
 あの日────初めて紗雪の踊っている姿を観た時、俺の視線は釘付けになった。

 重力を感じさせないほどの華麗な舞。

 そしてなにより踊ることが楽しくて仕方がないという無邪気で無垢な感情が身体全体から溢れており、観客である俺にすら伝わる。

 俺の空っぽだった心が満たされていく。そんな思いがした。

 舞台が終わったあと、俺はまったく興味すらなかったバレエのパンフレットを購入し、あの女は一体誰なのかと探す。

 舞台に出演していたバレエダンサーたちの宣材写真の中から、あの『天使』を探そうと夢中だった。

 西洋人が多く所属しているバレエ団の中から、アジア系の顔立ちと華奢な体格の彼女を探すのは難しいことではないだろう。
 役とアジア人という僅かな手掛かりですぐに見つかった。

 彼女は──天使の名前は瑠璃川紗雪というらしい。
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