スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
 その小ぶりな顔の中に収まる瞳はぱっちりとしているが、比較的大人っぽい顔立ちをしている美人だった。

『……って調べてどうするんだ? ファンですって近づくか?』

 俺は首を横に振る。
 たしかに熊沢を頼れば瑠璃川紗雪に近づくことは容易だろう。
 なにしろあいつの婚約者はあの舞台に出演していた主演バレリーナで、世界中で知名度の高いダンサーなのだから。

 だがそんなことは許されないと思った。

 瑠璃川紗雪が実際どんな声をしているのか、どんな性格をしているかなど全く知らない。
 だが舞台で無邪気に踊っていた彼女は、他の誰よりもバレエに夢中であることは一目でわかった。

 俺のような外ばかりを取り繕った嘘ばかりの男が近づいてはいけない存在。綺麗な彼女を汚してはいけない。

 正直、恋をしたのかと言われるとそういうわけではない。
 ただ自分とは真逆の位置にいる瑠璃川紗雪のことが気になって仕方がないというだけだ。

 興味本位で近づいて、万が一にもあの無邪気さを殺してしまうことがあれば俺は一生悔いることになるだろう。

 だからこそ俺はこの想いを心の奥に眠らせたままでいようと、そう決意した。


 だが────天使は自分から落ちてきた。
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