スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
『………あの、私…………日本に帰ることに、しました』

『……っ! 日本に?』

 その言葉にオレの心臓は凍りついた。
 いつかこんな日が来てしまうことは分かっていたが、こんなにすぐだとは予想もしていなかった。

 ギプスも取れてようやくリハビリが開始し、なんとか日常までの歩行はこなせるようになっているというレベルだったが、以前と同じように踊れる回復を目指している紗雪にとってはまだ主治医の存在は必要不可欠。
 
 けれど日本は帰国してしまうとなると二度と会うことはできない。

 愕然とする俺を尻目に紗雪はおかしいほど明るい声色で話した。
 無理をしていることはバレバレだった。

『バレエ団から退団を言い渡されて……仕方ないですよね。役立たずで将来どうなるかも未定な私を置いておいても意味ないですし』

『それで……瑠璃川さんは日本に帰ったあとはどうするんですか?』

『分かりません。私、これまでバレエしかやってこなくて……バレリーナ以外の道なんてかんがえたことなかったんです。だからもうなんていうか…………全てがどうでもよくって』

 すべてを諦めたような表情に胸が痛くなるほど辛かった。
 なんとかして紗雪を救いたい、元気づけたいと思った。

 このとき、俺は本当の意味で彼女に対する恋心を自覚する。

 自分よりも大切で守りたいと思えるほどは紗雪以外いないとはっきり分かったからだった。
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