スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
 俺には妹がいた。
 名前を春佳と言い、よく俺のことを『おにい』と言ってついて回ってきた可愛い子だった。
 だがその妹は俺が10歳の頃、難病にかかった。
 その当時、春佳は6歳。
 ちょうど小学校に入学したばかりで、新品のランドセルを背負い誇らしげに学校へ通っている。その最中だった。
 
 その難病というものが体の組織が死んでいき、次第に体が動かなくなっていくという病で、診断された時に未だ完治する治療方法が見つかっていないものだった。

 妹は病だと分かってからも挫けることなくいつも明るく笑っており、それだけでも俺たち家族は救われたような気持ちがしていた。

 だがやはり両親は当然のこどく嘆き、国中の名医を頼り、どこにでも出かけた。
 俺も少しでも春佳の生きる確率が上がるならばと、できることは少ない身ではありながら協力した。

 最初は足、そして腕と、動かなくなっていくと箇所が増えるに従い、春佳は逆によく笑うようになった。

 強がりだとは分かっていた。
 たった6つの女の子が自分の体が自分のものでなくなっていくだなんて恐ろしいだろう。

『春佳、絶対に良くなっておにいのお嫁さんになるんだから!』

 春佳はよくそう言って俺たち家族に心配かけないよう、いつでも前向きだった。
 
俺も『そうだね、春佳は絶対よくなるよ。大丈夫、お兄がついてるから』と励まし続けた。

 けれど次第に春佳の笑顔は少なくなっていった。
 家で両親も泣き暮らすことも増えた。

 病は治らない。 
 どの名医でもそう言った。

 最初は治そうとしない医者たちに腹が立っていたが、あるとき泣きながら両親に謝る担当医を見て、俺は一体なにをしてきたんだと思った。
 彼らに比べて何もせず、できることといえば両親が遠出しているときに家事をしたり、春佳のお見舞いのための花を届けるだけだ。

 俺は無力感を覚え、もし神様がいるのならば春佳じゃなくて俺を連れて行ってくれと何度願ったことが。

 家族の中の太陽でもあった春佳はとうとう寝たきりとなり、口もほとんど動かなくなっていった。
 ごく稀に指や腕を動かせる日もあったが、その日は特に体調の良い日だけだった。
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