スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
 10分ほど車を走らせ、熊沢に連れてこられたのはビル街にあるバーだった。
 日本に帰国してからは仕事が終わってから直帰していたため、こういう店はあまり詳しくない。
 以前はよく一人で飲みにいくことが多かったが、紗雪が待っていると考えるだけで店に行く気は失せるのだ。

「んで、何があったんだ? お前がそんな顔してるなんて初めて見たぞ? いつもはいかにも王子様って面してにこにこしてるくせに。腹の中は真っ黒黒なんだがな!」

 注文したマティーニを口に含んだ熊沢はニヤついた笑みを浮かべて顔を覗き込んでくる。

 俺は視線を逸らし、大きく息をついた。
 
「……好きだって言われた。でも色々事情があってごめんって謝って。それで紗雪はそのまま家から飛び出してって──」

「酔っ払ってないのに支離滅裂! まあ要するにすべてお前が悪いってことだね。どんな事情があるにせよ、お前は奥方と結婚してる。それで好きだって言われて謝るなんて最低最悪の男がするもんだな」

 ぐうの根もでず、俺は手元のギムレットを一気飲みした。
 今は少しでも酔いたかった。
 けれどいつまで経っても酔いは来ず、心はやるせなさでいっぱいだ。
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