スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
 私がそう告げるとステファニアさんは特に内容も聞きだそうともせず、もし帰りたくないのであれば気が済むまでここにいても良いと優しく言ってくれた。

「ワタシもよく旦那と喧嘩して数日帰らないこともあったしさ。一緒に暮らしてると色々嫌な面も見えてくるし、一人でもやもやするくらいなら数日離れて頭を冷やしたほうがずっと良いって気づいたの」

 そう言ってウインクをしてきたステファニアさんはとても美しかった。
 憧れの人の家にいつまでもいることは畏れ多かったが、そのご好意に甘えさせてもらうことにした。

 なにせ今は啓一郎さんの顔を見て冷静でいられる自覚がない。
 ただフラれただけなのに子供みたいだなと自虐的になりながらも落ち着いていられたのはステファニアさんのおかげだった。

「この部屋はゲストルームだからいつまでも使ってて大丈夫よ。ご飯はお手伝いさんが来てくれるから下のダイニングで一緒に食べましょう」

 まるで友人が泊まりに来てくれたときみたいにワクワクすると、楽しげに話しているステファニアさんを見て私も嬉しく思った。

 ここにいる時間は啓一郎さんのことを忘れることができた。

 そんなこんなで2日が経ち、その日、ステファニアさんに突然こんなことを持ちかけられた。

「紗雪、よければワタシのバレエスクールに一緒に来てみない? 実は場所が自宅の離れなの」

「離れにバレエスクールがあるんですか?」

 私は驚きで目を丸くした。
 昔通っていたバレエスクールも先生の自宅に隣接する練習場で開かれていたが、まさか敷地内に離れを作ってそこを練習場にするとは。

「そうそう! 週に4日、主に学生たちの指導をしてるの」

「そうなんですね。でもステファニアさんくらいのバレリーナであれば、有名バレエ団の講師へのお誘いとかたくさん来たんじゃないですか? それなのにどうして……」
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