スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
 初めて会った際、バレエスクールの講師をしていると聞いて最初に思ったことだった。
 なぜ彼女はプロではなくアマチュアを対象にバレエを教えているのだろうか。
 
「うーん、元々は引退したときにすっぱりとバレエをやめようと思ってたの。ワタシ、そのとき──あの引退公演のとき妊娠してて」

 突然の告白に私は個人的なことを聞いてしまったかと罪悪感を覚えた。
 けれどステファニアさんは気にするそぶりもなく続ける。

「でもそのときの子は流れちゃった。それに元々ワタシ妊娠しにくい体質で、この子が駄目だったらもう二度と子供を産めないかもしれないって言われてたの。すごく悲しくて何日も何週間も何ヶ月も泣いた。……それで泣いたあと決めたの。……子供達にバレエを教えようって」

「……っ」

 私は何もいえなかった。
 何も思いつかなかった。

 ステファニアさんは私に同情を求めているわけではないだろう。
 口調からはすでに自分の中でケリのついた話で、今は前向きに頑張っているということが伝わってくる。
 ぎゅっと口を閉じ顔を俯かせていると、ステファニアさんの腕が伸びてきた。

「顔を上げて、紗雪。まあこういう事情なんだけど……何が言いたいかっていうと、何かを失ったとしてもそれに変わる何かを見つけられるのが人生ってものよ。立ち止まって殻に閉じこもってたんじゃ、なんにも見えてこない」

「そう、ですよね……」

「だからさ、その殻を破るためには色々行動してみなきゃ! ってことで、一緒に見学に行きましょう!」

 ステファニアさんはにこにこと微笑みながら、私を離れへと引っ張って行く。
 私はそんなステファニアさんを見て、私ももこんな人になりたいなと漠然と思った。
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