スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
「………あの、私…………日本に帰ることに、しました」
「……っ! 日本に?」
蓮見先生は私の言葉に驚いたのか息を呑む。
「バレエ団から退団を言い渡されて……仕方ないですよね。役立たずで将来どうなるかも未定な私を置いておいても意味ないですし……」
口から出るのは自分を卑下する言葉ばかりだった。
そんな自分が情けなくて。
「それで……瑠璃川さんは日本に帰ったあとはどうするんですか?」
蓮見先生は真剣な面持ちで私の顔をじっと見つめた。
私はその真っ直ぐすぎる視線から目を逸らすようにして俯きながら答えた。
「分かりません。私、これまでバレエしかやってこなくて……バレリーナ以外の道なんてかんがえたことなかったんです。だからもうなんていうか…………全てがどうでもよくって」
私は自虐するようにからからと笑った。
そんな私の様子を見て蓮見先生はいきなりベンチから立ちあがる。
私は突然のことに顔を上げた。
蓮見先生はそのまま座っている私の目の前に立ち、膝をついた。
ぎょっとして、近くにあるその美しい顔を凝視する。
「あの……」
発言をする前に、蓮見先生は私の右手を取った。
あのとき──怪我に落ち込んだ私を励ましてくれたときと同じだな。
こんなときなのになんとなくそそう思った。
けれどそんな私の思いに反し、予想もつかない言葉が聞こえ──。
「瑠璃川さん──いえ、紗雪さん俺と…………結婚していただけませんか」
一瞬耳を疑った。
私の妄想なのかとすら思った。
おずおず口を開く。
「ええと……聞き間違いでなければプロポーズされたような…………」
「いいえ、間違いではないです。俺はあなた支えたい。一緒に頑張りましょうって以前言ったでしょう?」
「そ、それは怪我の治療とリハビリという意味では──」
私は蓮見先生の勢いに押されていた。
彼の瞳は痛いほどに真剣だった。
「これからのこと、何一つ考えていないんでしょう? それなら俺の妻になってからゆっくり考えればいい。俺はあなたのしたいことであればなんでも応援しますよ。それに、自分で言うのもアレですが俺結構面倒見いい方だと思うし」
「は、はぁ……」
呆然としながら頷く。
「──俺はあなたが欲しい。紗雪さんは今、すべてを諦めた顔をしてる。全部諦めて捨てるなら──俺にあなたの人生をいただけませんか?」
私はこくりと唾を飲みこんだ。
私はもうなにもない人間だ。
夢も潰え、これからの人生は空っぽのまま生きていくのだろう。
私はこのとき自暴自棄になっていた。
こんなに真剣な告白に対し、いい加減な気持ちで答えていいはずがないと分かっていた。
けれど────いつも温かく見守ってくれて、空っぽの私をここまで求めてくれる人に私は救いを求めていたのかもしれない。
「────はい。私の人生、あなたに全て差し上げます。結婚──お受けします」
私は自然と頷いていた。