スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
 私と啓一郎さんはあのとき──初めての告白と失恋を同時に味わった時も同じようにソファへ腰掛けていた。

 啓一郎さんが冷蔵庫から取り出してグラスに入れてくれた麦茶の中の氷がからん、と音を立てる。

 水滴のついたグラスを手に取り、私は一口含んだ。
 初めに切り出したのは啓一郎さんだった。

「あの時は……本当にすまなかった。紗雪を傷つけてしまって」

「それはお互い様です。最初からこの結婚は好きあってしたものじゃなかったし……私も一人盛り上がって────」

「違う!」

 遮る声に私は視線を啓一郎さんに向けた。
 啓一郎さんはなぜだか今にも泣きそうな、そんな顔で私を見つめる。

 その瞳には愛しさが含まれているようで──。

 私は呼吸が苦しくなり、視線を下へと向けた。

「こっちを向いてくれ、紗雪」

 啓一郎さんの乞うような声が聞こえて、ゆっくりと視線を向けた。
 相変わらずの愛しいものを見るような瞳に胸が張り裂けそうだった。

 この数日、何度啓一郎さんは私のことなど愛していないと繰り返しただろうか。
 それでも自惚れてしまいそうな自分を恥ずかしく思った。

 啓一郎さんは私の手を掴み、自分の頬に寄せた。温かい頬に愛しさが募る。
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