スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
「……っ紗雪…………ありがとう…………」

 涙を堪えるような声に私は今以上に力を入れて腕を回す。
 啓一郎さんも優しく、そして力強く抱きしめ返してくれた。

「私は死にません。啓一郎さんに愛されてるって分かっても、これからあのときの事故以上に辛いことがあったとしても────決して自分から死を選んだりしません。だから大丈夫」

「うん、うんっ…………紗雪…………愛してる。俺はずっと君が大好きだった。だからこれからもずっとそばにいてほしい」

 胸に宿る幸福に私は泣きたくなった。
 これ以上の幸せなんてこの世にないと思えるくらいだった。

「はい、啓一郎さんのそばにずっといます。私も──啓一郎さんのこと愛してます」

 私たちはそうして久しぶりのキスをした。

 心が通い合った後のキスはとにかく甘くて切なくて。しばらくの間、私たちは何度も何度も唇を合わせた。

 そうしていてふと、私の心にいくつの疑問が浮かび上がる。私は啓一郎さんの服の裾を掴み、恐る恐る尋ねる。

「そういえば、啓一郎さん。あのホテルのとき……懇親会の……あのとき私にえっちなことしたじゃないですか。どうして最後、謝ったんですか?」

「あれ聞こえてたんだ……」

 そう言って啓一郎さんは気まずそうに笑った。
 疑問はまだある。

「それに最後までしなかったじゃないですか? どうしてかなってずっと疑問に思ってたんです。私に……私の身体が貧相だから……あんまり興奮しなかったのかなって……」

「それはない」

 きっぱりと断言した啓一郎さんに目を丸くする。
 恐ろしいほど前のめりになって否定する姿に及び腰になる私。
< 85 / 141 >

この作品をシェア

pagetop