スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
「……啓一郎さんのバカっ!」

 翻弄される私の嘆きは啓一郎さんには届かない。
 しばらくして髪を乾かした啓一郎さんはリビングに戻ってきた。
 私はお風呂のあとのアイスをいつものように食べていたが、今日は緊張のせいかまったく味がしなかった。

 横目で啓一郎さんを見ると、いつも通り平静な様子で内心屈辱を感じる。

 振り回されてばかりで、いつも啓一郎さんには敵わない。
 そう考えていると少しばかり敵対心が芽生え、私は無謀なこととは思いながらも啓一郎さんを慌てさせたいと考える。
 
 心の中で『見ていなさい、啓一郎さん!』と呟くと、ソファで水のペットボトルを口に含んでいた啓一郎さんの隣に座った。

「ねえ、啓一郎さんっ! キスしよ」

「……? ……っ!」

 勢いよく唇を合わせる。
 大人のキスの仕方はホテルでの一件で経験済みだったので、それを真似て啓一郎さんの唇に噛み付いた。
 
 舌で相手の唇を割り、歯列や下顎をなぞる。そして濡れた舌同士を合わせるのだが──。

「……んっ、んっんんンンン!」

 不意打ちに啓一郎さんの舌が口内に入り込み、私の舌を吸って、そして絡め合う。

 ピチャピチャとした水音が部屋に響き渡り、急激に頭が真っ白になる。
 そして自分が今置かれている状況を理解した私は顔から火が出る思いだった。

 どちらのものかわからない唾液が口端からこぼれ落ち、呼吸が苦しくなる。
 頭がのぼせたようにふわふわしたと思ったら、敏感な下顎をなぞられると途端に体がびくびくと跳ねる。

 ようやく離れたと思ったら、今度は頭を抱えられてさらに奥へとこじ開けられる。

 何分、いや何十分キスをしていたか分からない。
 気づけばまるで湯当たりしてしまったときのように身体に力が入らなかった。

 まるで身体全体が軟体動物にでもなってしまったかのようにふにゃふにゃだ。
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