スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
「紗雪が煽ったんだから、これはお仕置きだよ」

「お、しおき?」

 これほど長く口付けていたのに啓一郎さんは呼吸一つ乱していなかった。
 これも経験の差かとがっくり項垂れていると、啓一郎さんは私の膝裏と背中に手を入れて抱き上げる。

「恥ずかしいから、だめ!」

 紛れもないお姫様抱っこに私は焦って抗議するも、啓一郎さんは「離さない」と王子様のような完璧スマイルを繰り出す。

 性を感じさせないほどの爽やかな笑顔だったが、移動しながら私の耳元で言った言葉には紛れもない欲情が含まれていた。

「今から抱くよ」

 りんごのように顔を赤らめ、俯く私を優しくベッドへ下ろす。

 部屋は間接照明のみで薄暗く、見慣れた部屋であるはずなのに今日は大人の雰囲気を醸し出していた。

 そんな中で啓一郎さんは覆い被さり、至近距離で見つめ合う。
 その瞳の奥には隠しきれぬ情欲の炎を感じた。
 それなのに啓一郎さんは瞳を閉じて、おっかなびっくり口を開く。

「紗雪……嫌じゃない?」

 まるで壊れやすいガラス細工を手にとるように、そっと私の髪を梳く。

 私はようやくそのとき悟った。

 啓一郎さんも不安なのだと。

 愛を告げると相手が死んでしまうという呪縛にいまだ啓一郎さんは囚われている。
 今日の夜を越して、明日を越して、ようやく安心する事が出来るのだ。

 それだけ心の傷は根深い。

 だからこそ、私は誰よりも愛しい人に愛を込めて伝える。

「嫌じゃない。私も啓一郎さんと繋がりたい。──愛してる」

 その言葉に啓一郎さんは一瞬泣きそうに顔を歪めた。
 そして閉じていた瞳を開け、触れていた私の髪を愛おしそうに撫でた。

「俺も愛してる。紗雪のこと世界でいちばん愛してるから」

 そう言って、私たちはベッドへ沈んだ。
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