スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
そして私は主治医であった蓮見啓一郎と結婚するに至ったのだ。
彼は結婚するにあたって日本へ帰国すると言う。
「蓮見先生……それってもしかして私のためですか?」
私は自分のせいで蓮見先生が日本へと帰国しようと思っているのだと思い、顔を青ざめさせる。
しかし蓮見先生は否定した。
「それは違う。元々年内にパリから離れるつもりだったんだ。パリにきたのも若いうちに色んな国で患者と接して視野を広めようと思っていたからだし」
どうやら蓮見先生はパリ以外にもイギリスやドイツ、アメリカ等様々な国を跨いで医者として働いてきたのだと言う。
そんな志高い蓮見先生の横顔に何故だか心が騒いだ。
「それと────」
「…………?」
蓮見先生は私の鼻をつまむ。
私はいきなりの行動に目を瞬かせた。
「蓮見センセイって……もう君も蓮見になるんでしょ? だから下の名前でよんでよ。ねぇ…………紗雪?」
わざわざ耳元に口を近づけて名前を呼ぶ蓮見先生──もとい啓一郎さんに肩を震わせる。
絶対今、顔が赤くなっているはずだと分かっているため顔を上げることができない。
「紗雪?」
「…………~~っもうっ!」
私は顔を上げ、涙を浮かべながら啓一郎さんを睨みつけた。
啓一郎さんは分かっているのか、それとも分かっていないのかどっちともつかぬ反応で微笑むのだった。
この人はもしかしたら────結構策士なのかもしれない。