Colorful
「……返事はいらねぇから」

そう言って目を逸らす楓は、頬は白いままだが耳はほんのりと赤い。それを認識した時、若葉の中に「可愛い」という思いが芽生えてしまった。

「お前、何で絵を描くようになったわけ?」

告白などなかったかのように楓は椅子に座り、未だに顔が赤い若葉を見ている。若葉はドキドキと胸を高鳴らせながら思い出を振り返った。あの時感じたことは、まるで昨日のことのように覚えている。

「私が小さい頃、いとこのお姉さんが美大に通っていて、たまたまお姉さんの家に遊びに行った時に絵を描いてくれたんです。真っ白だったキャンバスが、時間をかけて綺麗な作品に変わっていて、私もあんな風に絵を描いて誰かを感動させたいって思ったんです!」

あの時、絵に触れなければ自分は何を楽しみに生きてきたのだろう。想像してもその答えは出なかった。

「若葉、お前の絵は確かに他の奴から見たらうまくないかもしれない。でもな、どんな奴だって最初からすごい画家だったわけじゃないんだ。どんだけ時間がかかってもいい。絵を描くことを嫌いになるな」
< 10 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop