いらない物語(続・最初のものがたり)
2
大会中で集中してる勇磨の
邪魔はしたくないから、
私から会うの控えた。

勇磨はそんな必要ないって言ったけど、
応援したいから。

私だって、勇磨の応援したいから。

勇磨は私に会えなくて寂しいって、
思ってた?

繋いだ手をじっと見つめた。

嬉しいけど、手袋、邪魔だな。

寒いの無理って言ってたけどさ。

春まで、直接、繋げないのかな。

不満が顔に出た。

「なんだよ、怒ってんの?
だって仕方ねぇだろ。
俺がイヤなんだもん」

ふっ。違うよ、それじゃないよ。

笑った。

なんだよ、かわいいなぁ。

「笑うんじゃねー。
ナナは自覚が足りないんだよ。
全く、しっかりしろよ。
そんなんじゃ心配で合宿なんて行けないな。」

最後は叱られた。

合宿。

そっか、明日からだ。

やっぱり、行くんだ。

「全く、ナナは俺が目を離すと
すぐに気を抜くからな。
隙だらけなんだよ。
自分が女だって事、忘れんなよ。
小学生のままだな。
大人の女性には程遠いな。」

呆れたように言う勇磨。

冗談半分なのは分かってるけど、
なんかトゲみたいのが刺さった。

「大人って・・・」

小さなトゲが深く刺さって、
痛みが広がった。

そんな風に言う事ないじゃん。

女である事を忘れるってなんだよっ。
そんな奴いるの?
そもそも
私、忘れてないし。
気も抜いてないし。
大人って・・・。

「大人の女性って、そんなにいい?
女の子だって、いいじゃん!」

私の問いに笑いながら答える。

「そりゃあ、どっちかって言ったら、
高校生男子には、憧れだろ、大人の女性。
まぁ、俺はちが・・・。」

憧れ・・・。

その言葉に思いのほか傷ついて、
勇磨の言葉を最後まで聞けなかった。

「私だって、女としての自覚もあるし、
子どもじゃない。
大人でもないけど、でも、
勇磨に見張られてなくても、
ちゃんとできてる!」

なんだよ、バカ。
ケンカしたくないのに。
怒りたくないのに。
勇磨が安心して合宿に行けるようにって、
私、すごく頑張ってるのに。

別にだらしない訳じゃないのに。

「ナナはお子ちゃまだろ。」

そう言ってケラケラと笑う。

だから、大人って何?
どういうのが、大人なの?
私とどう違うの?
高校男子の憧れってどんなの?

分からない。

でも、聞くんじゃなかった。

「うーん、そうだなぁ。
大人ってのは自立していて、
良くも悪くも、
自分の行動に責任を持てる人かなぁ。
まぁ、大人の女性ってなると、そりゃあ、
落ち着いた雰囲気とか?
余裕ある身のこなしとか?
立ち居振る舞いとかさ、平常心とか?
あ、すぐキレないとかね。
ま、諸々だけど、魔性的な魅力があって、
振り回されそうな感じが高校男子には
たまらないんじゃないかな」

変態だな。
自分で言って爆笑する。

「な、ナナとは正反対だろ」って更に笑う。

だけど、それ。

私、笑えない。

言われなくても分かってる!
私から程遠い。

でも私だって。
勇磨が言う程自覚ないわけじゃない。

フシダラでもないし、服装だけで、
そんなに言わなくてもいいのに。

曲がった心が更にヨジレテ戻せない。

「じゃあ、
もっと魔性的で自立してて落ち着いてる
かわいい大人の人と付き合えばいいじゃん。
私、それにはなれないよ。
派手でも肩落ちてても、
踊ってて上がる好きな服でいたい。
誰かの為にやめるなんてできない。
私は私の好きなようにしたいの」

あー違う違う!
そんな事を言いたいんじゃない。
違う!
全然、違う!

だけど、
勇磨の憧れにはなれない。

程遠い。

程遠いって事は、
私にそうなって欲しいって事じゃなくて、
そういう子が好きって話に聞こえる。

そういう事だ。

だから、曲がった心が更にねじれ
もう、解けない。

修正したい。

なのに、止まらなくて口から出たのは
勇磨を傷つける言葉ばかり。

もうやだ、止めて。

「露出がどーとか、胸が見えるとか、
そんな事言うの、勇磨だけだよ!
勇磨だけ、そういう目で見てるんだよ。
ダンスは表現なんだよ!
いやらしい目で見るなら、もう来ないで!」

ヤバイ、もう止まらない!

なんだよ、私。

どうして、なんで。

勇磨はそんなつもりで
言ってるんじゃないのに。

分かってるのに。

久々に会えたのに。

勇磨を見れない。

大人の女性ってなんだよ!

自立した大人
落ち着いた立ち居振る舞い
余裕のある人。
振り回されそうでたまらない。

誰のことを言ってるの?

どこでキレたの?

何にキレたの?

分かんない!

走ってその場から逃げたかったけど、
勇磨が手を離してくれなかった。

「ちゃんと送るから。もう、落ち着け」

そのまま黙って歩いた。

なんだよ、エラそうに。

私の怒りなんて戯言みたいに。
いつもの事だって流すの?

なんで、怒らないの?
なんで言い返さないの?
なんで、否定しないの?

ケンカにもならない。

勝手に怒ってキレる子どもな私が悪い

分かってる。

だけど。

途中、何度も謝ろうと思った。
謝りたかった。
でもできなかった。

なんだろう、私。

ものすごく、かわいくない。

家の前で手を離して

「風邪ひくなよ」

そう言って帰って行った勇磨。

怒ってるよね、きっと。

あきれたよね、きっと。

面倒だって、思ってる、きっと。

自分が嫌い。

どうしてこんな風になっちゃったんだろう。

私と勇磨の温度差。

私1人が怒って騒いで空回り。
勇磨は笑ってた。
余裕があった。
違うって、怒って欲しかったのに。
しなかった。

勇磨の中で何かが変わってる。
その何かが引っかかって、素直になれない。

勇磨...。

その背中を見ていられなくてドアを閉めた。
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