こんなにも愛しているのに〜私はましろ
日付が変わりそうな頃に陸は帰宅した。
手ぶらで、、、
「真っ直ぐに帰ってきた。」
「ごはんは?」
「カップ麺を食べた。」
「お風呂に入ってきたら。その間に、豚汁を温めておくから。」
「豚汁か、、、久しぶりだな。」
いつもと変わらない会話。
ましろは仕方ないこととは言え、自分達医師の食生活の不健康さに
ため息が出た。
自分だって、菓子パンだけで済ませることもある。
牛乳で流し込みながら。
それでも、何も口にできない日もあって、栄養食品のゼリーを吸っているときも
ある。
陸の好物の豚汁、具を多めによそいながら、七味などを出して
お盆に載せた。
この大ぶりな塗りのお椀は、西崎のお義母様が、私たちのために
好きな作家さんに頼まれて、誂えてくださったものだ。
’毎日使ってあげると、ちゃんと育ってくれるからね。’
とおっしゃって。
育っていない私たち夫婦が使う、このお椀はまだ新しかった。
陸が、髪をタオルでゴシゴシと乱暴に擦りながらお風呂から上がってきた。
ありがとうと言いながら、豚汁に箸をつける。
食べている間は黙っている方がいいのか
それとも
食べながら聞いてほしいのか。
陸の何かを考えながら、豚汁を食べている様子に、
食べ終わるまで待つことにした。
もうすぐ食べ終わるだろうという頃に、先日母が持ってきてくれた
ほうじ茶を淹れた。
私が好きな京都のお茶屋さんのものだった。
二人で近いうちに京都に行こうと言いながら、結局は京都にも、他所すらも
行けていない。
「ましろ、、、」
「何、、、、?」
「ましろがいるところに帰ってきたい。」
「。。。。。」
「もう、軽率なことはしないから。
ましろが何を考えているか、いつでもいいから、ましろが話したいと思った時に
話してほしい。」
「。。。。。」
「俺もきちんと話していく。今の俺のことや、これからのこと、、、
考えたら、研修も終わるのに将来、何を目指すのかもよく話してなかった。
学生時代に話していたけど、実際に医療業務について、やっぱりちょっとずつ
変わってきたこともあったのに。」
「毎日が必死。毎日のことに追われて、陸とは一緒にいるからいつでも
話せると思っていた。
陸が初め目指していた、心臓外科の専攻も、もしかしたら、ちょっと
気持ちが揺れているかなって、思っていたけど、、、」
「ましろも、産婦人科医を目指していたけど、どうなんだろう、、、
こんなお互いに大事なことすら、真剣に話し合ってもこなかった。」
「なかなか陸との時間も取れずに、私は先輩先生たちに相談するばかり、
陸はこれからのことをどう思っているのか、私から見たら、時間さえ
あれば遊んでばかりのような気がして、、、
もう、真面目に話したくもなくなっていたの。
。」
「そうだな、、、病院でも家でもこれからのことが追っかけて来て
思わず安易な道を選んでしまった。
もちろん、医師になるという気持ちは変わらなかったし、まじめに
取り組んできた、、、ただ、自分を解放する時間が、ましろと合わなくて
一人だったり、ましろと話しても、医師としての話だったり、、、」
「そう?
もっと、一緒に仕事とは関係ないことをしようって、言っていたのに。
結局は、京都にも行かず、どこにも行かず、遊園地も行かず。。。
大学の頃にしか、行っていないね。
陸はまだまだ、いろんな人と気軽に付き合って行きたかったんじゃない?」
「それはない。
ただ、ましろとどういうふうに向き合えばいいのか、夫婦になって
悩み出した。
ましろは俺がいなくても、一人できちんとなんでもできるし、
激務の息抜きだって、俺みたいに自堕落にはならない、、、
ましろには敵わない。
高校の時からそうだったけど、ましろは強い。。。」
「陸、、、私は陸が羨ましい。
お義母様も、本当に陸を大事にしてあるし、お義父様も厳しいけど、
陸のことをちゃんと考えてある。
手塚くんだってあんなふうだけど、陸のことが大好き。
私は、陸達と知り合った頃から、誰にも寄りかかれない生活を送ってきたの。
父も母もきちんと私を愛してくれたけど、弟達を庇護して愛してやまないようには
愛されていなかったような気がする。
私が、両親を盲目的に敬愛していなかったからかもしれないけど。
自分の身は自分で守らないと、私は堕落してしまうって、いつもそれを肝に
命じて生きて来たって、言ってもいい。」
陸が何か言いたそうにしていたが、私は陸が口を挟むのを遮った。
「陸には重いかもしれないけど、私はこんな私でも陸が受け止めてくれるって
信じていたの。
あの日、私が母が妊娠してショックを受けて、寝込んだ日に陸が来てくれて、、、
陸のことが好きだと、ちょっと気づいて。
高校の頃、陸のことが気になっていたのは、陸への思いがあって、それが少しずつ積み重なっていって、、、
ある日、陸の隣に私ではない誰かがいるのは、辛いって思うようになって、、、
でも、陸にはそんな私が重かったのよね。
私に優しくしてくれるのに、他にちゃんとガールフレンドも、恋人もいて、、、
結婚してからも、ナースやドクターや、選び放題で遊んで、、、
けど、何も言えなかった。陸から、こんな重い女だったんだと思われたく
なかった、、、」
「ましろ、、、、俺の方が、ましろの何十倍も好きだ。
俺が他の女の人といても、顔色一つ変えないましろに、俺は
自分ばかりましろが好きなんだって、拗ねていた。
医師になって、ましろは優秀なのに、日々努力をしているましろを見るたびに、
ましろには俺は必要ないのかもしれないって、勝手に拗ねていた。
俺がいなくても、生きていけるって。。。
どうして、ましろは俺と結婚してくれたんだろうって、、、、
バカだよな。こんな子供みたいなことを言って。
それでも、ましろが俺の奥さんだってことが俺の幸せだった。」
「私が、陸の枷になっていたのね。
結婚しなければ、陸はもっと自由だったのに。」
「違う!
それは違う。
ましろと結婚できたから、あまりにも幸せで、、、ましろはどうなのだろうって
不安だったんだ。」
「。。。。。」
「本当に、子供みたいでごめん。。。
ましろには高校の時、本当に嫌になるくらい、バカみたいな自分を晒して
しまっていたのに、、、」
「陸、、、私は自分を見失うほど感情的にはなれないけど、けど、
好きでもない人と、愛してもいない人と一緒にはならない。
私は、お互いを思い遣りながら、暮らして行きたい。
どんなに忙しくても、愛する人のところへ帰りたい。。。
父のように、他所へ自分の癒しを求めるような人とは、辛くて
これ以上一緒にはいられない。」
「ましろ、ましろ以外に心が動かされることなんかない。
確かに、ばかな遊びもしたけど、ましろを裏切る気なんてなかった。
でも
嫌だったよね。反対の立場だったら、俺は嫉妬に狂うと思う。。。」
手ぶらで、、、
「真っ直ぐに帰ってきた。」
「ごはんは?」
「カップ麺を食べた。」
「お風呂に入ってきたら。その間に、豚汁を温めておくから。」
「豚汁か、、、久しぶりだな。」
いつもと変わらない会話。
ましろは仕方ないこととは言え、自分達医師の食生活の不健康さに
ため息が出た。
自分だって、菓子パンだけで済ませることもある。
牛乳で流し込みながら。
それでも、何も口にできない日もあって、栄養食品のゼリーを吸っているときも
ある。
陸の好物の豚汁、具を多めによそいながら、七味などを出して
お盆に載せた。
この大ぶりな塗りのお椀は、西崎のお義母様が、私たちのために
好きな作家さんに頼まれて、誂えてくださったものだ。
’毎日使ってあげると、ちゃんと育ってくれるからね。’
とおっしゃって。
育っていない私たち夫婦が使う、このお椀はまだ新しかった。
陸が、髪をタオルでゴシゴシと乱暴に擦りながらお風呂から上がってきた。
ありがとうと言いながら、豚汁に箸をつける。
食べている間は黙っている方がいいのか
それとも
食べながら聞いてほしいのか。
陸の何かを考えながら、豚汁を食べている様子に、
食べ終わるまで待つことにした。
もうすぐ食べ終わるだろうという頃に、先日母が持ってきてくれた
ほうじ茶を淹れた。
私が好きな京都のお茶屋さんのものだった。
二人で近いうちに京都に行こうと言いながら、結局は京都にも、他所すらも
行けていない。
「ましろ、、、」
「何、、、、?」
「ましろがいるところに帰ってきたい。」
「。。。。。」
「もう、軽率なことはしないから。
ましろが何を考えているか、いつでもいいから、ましろが話したいと思った時に
話してほしい。」
「。。。。。」
「俺もきちんと話していく。今の俺のことや、これからのこと、、、
考えたら、研修も終わるのに将来、何を目指すのかもよく話してなかった。
学生時代に話していたけど、実際に医療業務について、やっぱりちょっとずつ
変わってきたこともあったのに。」
「毎日が必死。毎日のことに追われて、陸とは一緒にいるからいつでも
話せると思っていた。
陸が初め目指していた、心臓外科の専攻も、もしかしたら、ちょっと
気持ちが揺れているかなって、思っていたけど、、、」
「ましろも、産婦人科医を目指していたけど、どうなんだろう、、、
こんなお互いに大事なことすら、真剣に話し合ってもこなかった。」
「なかなか陸との時間も取れずに、私は先輩先生たちに相談するばかり、
陸はこれからのことをどう思っているのか、私から見たら、時間さえ
あれば遊んでばかりのような気がして、、、
もう、真面目に話したくもなくなっていたの。
。」
「そうだな、、、病院でも家でもこれからのことが追っかけて来て
思わず安易な道を選んでしまった。
もちろん、医師になるという気持ちは変わらなかったし、まじめに
取り組んできた、、、ただ、自分を解放する時間が、ましろと合わなくて
一人だったり、ましろと話しても、医師としての話だったり、、、」
「そう?
もっと、一緒に仕事とは関係ないことをしようって、言っていたのに。
結局は、京都にも行かず、どこにも行かず、遊園地も行かず。。。
大学の頃にしか、行っていないね。
陸はまだまだ、いろんな人と気軽に付き合って行きたかったんじゃない?」
「それはない。
ただ、ましろとどういうふうに向き合えばいいのか、夫婦になって
悩み出した。
ましろは俺がいなくても、一人できちんとなんでもできるし、
激務の息抜きだって、俺みたいに自堕落にはならない、、、
ましろには敵わない。
高校の時からそうだったけど、ましろは強い。。。」
「陸、、、私は陸が羨ましい。
お義母様も、本当に陸を大事にしてあるし、お義父様も厳しいけど、
陸のことをちゃんと考えてある。
手塚くんだってあんなふうだけど、陸のことが大好き。
私は、陸達と知り合った頃から、誰にも寄りかかれない生活を送ってきたの。
父も母もきちんと私を愛してくれたけど、弟達を庇護して愛してやまないようには
愛されていなかったような気がする。
私が、両親を盲目的に敬愛していなかったからかもしれないけど。
自分の身は自分で守らないと、私は堕落してしまうって、いつもそれを肝に
命じて生きて来たって、言ってもいい。」
陸が何か言いたそうにしていたが、私は陸が口を挟むのを遮った。
「陸には重いかもしれないけど、私はこんな私でも陸が受け止めてくれるって
信じていたの。
あの日、私が母が妊娠してショックを受けて、寝込んだ日に陸が来てくれて、、、
陸のことが好きだと、ちょっと気づいて。
高校の頃、陸のことが気になっていたのは、陸への思いがあって、それが少しずつ積み重なっていって、、、
ある日、陸の隣に私ではない誰かがいるのは、辛いって思うようになって、、、
でも、陸にはそんな私が重かったのよね。
私に優しくしてくれるのに、他にちゃんとガールフレンドも、恋人もいて、、、
結婚してからも、ナースやドクターや、選び放題で遊んで、、、
けど、何も言えなかった。陸から、こんな重い女だったんだと思われたく
なかった、、、」
「ましろ、、、、俺の方が、ましろの何十倍も好きだ。
俺が他の女の人といても、顔色一つ変えないましろに、俺は
自分ばかりましろが好きなんだって、拗ねていた。
医師になって、ましろは優秀なのに、日々努力をしているましろを見るたびに、
ましろには俺は必要ないのかもしれないって、勝手に拗ねていた。
俺がいなくても、生きていけるって。。。
どうして、ましろは俺と結婚してくれたんだろうって、、、、
バカだよな。こんな子供みたいなことを言って。
それでも、ましろが俺の奥さんだってことが俺の幸せだった。」
「私が、陸の枷になっていたのね。
結婚しなければ、陸はもっと自由だったのに。」
「違う!
それは違う。
ましろと結婚できたから、あまりにも幸せで、、、ましろはどうなのだろうって
不安だったんだ。」
「。。。。。」
「本当に、子供みたいでごめん。。。
ましろには高校の時、本当に嫌になるくらい、バカみたいな自分を晒して
しまっていたのに、、、」
「陸、、、私は自分を見失うほど感情的にはなれないけど、けど、
好きでもない人と、愛してもいない人と一緒にはならない。
私は、お互いを思い遣りながら、暮らして行きたい。
どんなに忙しくても、愛する人のところへ帰りたい。。。
父のように、他所へ自分の癒しを求めるような人とは、辛くて
これ以上一緒にはいられない。」
「ましろ、ましろ以外に心が動かされることなんかない。
確かに、ばかな遊びもしたけど、ましろを裏切る気なんてなかった。
でも
嫌だったよね。反対の立場だったら、俺は嫉妬に狂うと思う。。。」