こんなにも愛しているのに〜私はましろ
高校生になって2回目の夏が来ようとしているある日。
担任の先生から頼まれて学年のレジュメ作りを他クラスの女子と
3人でしていた。
学年会の分なので50部にも満たないレジュメを、ホッチキスどめ
するだけのことだけど。

文系クラスのこの子は、ずっとずっと喋っている。
主に、手塚くんと西崎くんのことを。
1年のあの大騒ぎのことなどを。

よく知らないからと言っても、あの騒ぎの時に手塚くんを引っ張ってきたのは
私だし、全て他人事のように話す私の態度を、彼女は胡散臭げに感じて
いるようだ。

苦手だ、、、
どうでもいいから、早く手を動かして、済ませよう。

「ねぇねぇ、知っている?」

(どこかの井戸端会議の始まりですか?
ちょっと聞いたぁ、奥さん、、、的な。)

彼女の可愛い顔が少し意地悪く歪む。

「西崎くんの話。」

(私は眉毛ひとつ動かしません。)

「私の中学時代の友達の彼が、西崎くんと同じ塾だったんだけど。」

(それって、接点なしじゃない。)

「西崎くん、年上の子から好きになられて、挙句にその子からストーカーに
あって、おまけに悪いことに、その子の仲間がわっるい子たちでさ、
付き合わないと、死んじゃうまで言われて、、、
で、、、」

そこで
私の様子を伺うように話を区切って、ホッチキスを休みなく動かしている
私の右手を軽く自分の手で抑えた。
芝居がかったような仕草で。

「西崎くん、彼女がいたのね。」

「知らない。」

彼女の手を、そっと外して、ホッチキスを動かし続けた。

「すっごい美人なんだって。
ストーカーの目の前で
その彼女と、待ち合わせてホテルに入っていったんだって。
すごいと思わない。

で、ストーカーは、エントランスで喚いたらしいんだけど、その西崎くんの彼女が
ビンタを食らわせて、黙らせたって。」

見てきたような嘘?

「西崎くんの彼女、すごいね。
年上で、ものすごい美人で、二人でイチャイチャして歩いているところを
何人もの人が見ているらしいから、、、

ホテルに行くような大人なんだね。」

「そう?」

私はわざとホッチキスどめが終わったレジュメを、トントンとさせて
ばさっと机の上に置いた。
いい加減にして欲しかった。
そんな痴話話を聞きたくもない。

「ただ、こういう話があるって、、、こと。
この頃、西崎くん様子が変でしょ。
その原因がホテルに行ったことが、親にバレて大変だったらしい。。。」

「そう。」

「西澤さん、嫌じゃないの?」

「そんな話を聞かされるのは、誰だって嫌じゃない?しかも本人から
聞いたわけでもなく。
明日、西崎くんが来たら、こんな話が出回っているけど真実は?って
尋ねてみたら。」

「別に、、、
西澤さんは西崎くんが好きな人って聞いていたから、こんな男よって教えて
あげただけ。」

「私、、、知らないわ。そんな話。
それより、レジュメ作成も終わったから、職員室へ届けない?」

「まぁ、雪女は所詮雪女で、どんなことにも心を溶かされない、、、
あっ、雪女って西澤さんのこと。
ヒュ〜って吹雪が吹いているみたいだものね。あなたの周り、、、」

「おいっ。。。」

低い声で呼びかけて来たのは、いつの間にか教室入口に立っていた
手塚くんだった。

彼女はいつもの手塚くんとは違い、黒いオーラを纏った彼に慄いた。

「お疲れ様。
レジュメ、職員室までお願いね。
私、この後部活があるから。」

慌てて教室を出て行こうとする彼女に、さらに手塚くんの低い声が
追っかける。

「西崎のこと、お前に西崎が何か相談でもしたのか。」

「えっ、、、」

「有る事無い事ペラペラ喋りやがって、、、おまけに何の関係もない
西澤さんに嫌味なこと前言いやがって、、、

本当のことを言ってやろうか。
お前が西崎に告って、振られたって。そんとき、俺も一緒にいたよな。」

「ひどい、、、
なんでそんなことを言われなきゃいけないのよ。」

「うざいからだよ!早く帰れ!
そして、2度といい加減なことを言うな!」

初めてみる手塚くんの様子に私は驚きしかなかった。
言われた彼女が、何も言えず、顔を真っ赤にしてバタバタと
教室を出て行った。
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