こんなにも愛しているのに〜私はましろ
母は廉が亡くなった時のことを言う私に
母もいつまで経っても傷が言えないのだろう、
心がずくりと痛む顔と同時に、驚きの顔をしていた。

驚いたのは、私の毒を含んだ棘のある言い方だと思う。

「ましろ、、、どうしたの?
何か、学校であった?」

「学校、、、嫌なことはずっとある。」

お父さんとお母さんに、子供は廉しかいないかったの?

私のことを考えていると言いながら、何を考えてくれていたのだろう?

廉が亡くなった時、お母さんをこんなにも苦しめているのなら
弟なんて生まれてこなければいい、、、と恨んだ私のせいだと
思った時
お父さんもお母さんも私の恐怖に気づかなかった?

その後、お父さんとお母さんは気持ちがすれ違っていた?

私が知っている両親ではなかった。

「私という家族がいるのを忘れていたんじゃない?」

「ましろ、そんなことはない!
私もお父さんもましろのことはいつも気にかけていた。」

「そう?

気にかけていたのなら、お父さんのあの無様な姿を
なんで、私が見たんだろう?

いつも間にか廉の命日に、一緒に行かなくなったお父さんを
お母さんは、なんで庇っていたのだろう?」

「ましろ、、、」

「廉の命日が近づくと、壊れていくお母さんを支えることもしないで
お父さんは何をしていたの?
家族を忘れて不倫?」

「ましろ。。。」

母は言葉もなく、ただ私の名前を呼んでいた。
その顔は真っ青で、その様子に私は心が痛んだ。

父に対する気持ちを、母に八つ当たりをしても、どうしようもないと
わかってはいたが、この持って行き場のない気持ちを
母にぶっつけずにはいられなかった。

「私が見たことで、それを言ったことで、お母さんがお父さんと
別れるっていうのが嫌だった。
私のせいで、、、でも、あんなお父さんを許してしまうお母さんも嫌だった。

私はね、大人しくって物分かりがいい子供でもなんでもないの。
西澤 樹と西澤 茉里の娘、ましろなの。
両親が好きだった。でも、あっという間に崩れてしまうような家族だったら
崩れて欲しかった。

私は西澤 ましろとしてだけで、これから生きていく。

両親はいません。
二人で、これからのことは考えて。
いろんなことを、私のせいにしないで。

知っているのよ。
お母さんがお父さんからのメールを待っているの。
私の目を気にしているようだけど、わかっている。

お父さんのところへ行ってきたらいいじゃない。
私は一人でいい。

お父さんとお母さんはお父さんとお母さんだけど、
男と女、、、」

「ましろっ!!」

母が叫び声を上げた。

「本当のことでしょう?あんな無様な姿を晒した、お父さんに、、、
それを娘が見たらなんて、露ほども思わなかったお父さんがしたことを
考えたら、私は、到底許せない。

けど、、、」

いつの間にか、涙でぐちゃぐちゃになった顔を拭おうともせずに
母を正面から見据えて言った。

「お母さんがお父さんとやり直したいって思うんだったら、
どうぞ。
私は反対しない。

私のことは考えないで。
間違っても私のせいで、離婚するなんて言わないでね。」

母の目からも涙がながれていた。
私は最後にそう言うと自分の部屋に篭った。

手塚くんの話から、私は心をかき乱されていた。

西崎くんがしたことが、私の父のあの日の姿と重なって、もう、我慢が
できなくなっていたのだ。
別に
西崎くんに特別な感情を、持っているわけではなかったが、
あの日の父の姿を彼も見ていたはずなのに、
考えもなしに、同じようなことをしていた彼に嫌悪し、
父への嫌悪も増し、そんな父への気持ちに、踏ん切りがつかない母への
嫌悪も増幅してきたのだ。

でも
私は翌日から
自分を抑えて
いつものように母に接した。
わざとらしくもなく、かと言って、後ろめたそうにでもなく
そのことが母を余計混乱させていると、私にはわかっていた。

母は私の気持ちを、もう一度きちんと聞く勇気もないようだった。
しばらくして
理恵おばさんから、私に電話があった。

母から聞いたと、直球で開口一番に言われたが

『理恵おばさん、、、理恵おばさんが言っていた、父と母は
父と母だけど、男と女でもあるの、、、って。


本当に理解をしているの。

私は二人の子供として、邪魔はしない。
私はいないものとして、再構築なりなんなりしてくれた方が
私もこの泥沼から抜け出れる、、、』

心配をしてくれている理恵おばさんにまで
揚げ足をとるような言い方をしてしまった。

もうこの世に自分の味方なんか一人もいなくていい。
と思っていた。
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