こんなにも愛しているのに〜私はましろ
ましろはあの時小さかったから、ちゃんと覚えていないのだと
思う。

ましろはあの時小さかったから、他の記憶と混同しているのだと
思う。


母はあの時の記憶を頼りに、私が話をすると
決まって
そう言う。

確かに幼くて、記憶も曖昧なところもあるが、
あの鮮烈な記憶が、自分の思い違いでないことぐらいは
しっかりとわかる。

今なら理解できる。
母は自分の身の上に起こった、悲しみを
思い起こしたくないのだと。

それ以来、私は
母を悲しませることは言うまいと
心に誓った。

母が私に兄弟ができるのよ、、、と
うれしそうに言った顔は覚えている。
ただ
うれしそうだったが
母の妊娠期は体調が悪いことが多く
こんなにお母さんが
大変で辛いのなら
私は兄弟はいらない、、、
なんて
後悔するようなことを思ったりしていた。

それほど
母の体調は優れなかった。
父はその時
仕事が大きな転換期を迎えていたらしく
毎日が忙しく
私が起きている時に父に会うことは
ほとんどなかった。

今で言う
ワンオペ状態で
母は自分の妊娠と仕事と家庭を
抱えていたのだ。

私も心配していたのだと思う。
母を困らせることはしてはいけない、
言わない
と随分とお利口さんにしていたらしい。

これは
母の親友で、父とも大学時代からの知り合いの
’理恵(りえ)おばさん’が言っていた。

たまたま
家の最寄駅の近くに弁護士事務所を開業し
おばさんの住まいも事務所と同じマンションだったので
近所にいて
母の面倒や私の世話などを
それこそ親身になってしてくれた。

母より優しかったり
母と同じように厳しかったり
それ以上だったり
私にとって理恵おばさんは
あの頃から
心の支えだ。
母にとってもそうだろう。
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