こんなにも愛しているのに〜私はましろ
初期研修最終間近。
私は内科1病棟にいた。
初期研修でいろいろな分野を研修してきて、来年からは専門医を
目指して後期研修に入る。
陸も私も真摯に研修に取り組み、先を見て勉強を進めていった。
来年もこの母校の附属病院に受け入れてもらえる。
2年間の研修医生活。
すれ違いの日々だった。
手塚くんのせいばかりではなく、蓄積した疲労と、いつの間にか
薄れていったお互いへの思いやりのせいで、私たちの不協和音が
始まったのだろう。
ひたすら冷静を装ってはいるが、陸のことを好きで、私に嫉妬心を向ける
女性たちには辟易としていた。
かと言って、今日のように陸を追い詰めるようなことは、したことがない。
今日が初めてだった。
陸のことを信じてはいるが、陸も男だ。
他の人に目が行ったり、たまには、私以外の女性と付き合って、みたいのではないだろうか。
陸が、断じて浮気はしないと言うのなら、そうかもしれない。
けど、
陸からの私への愛情を、何の不安もなく信じることができない自分もいた。
今も
レポートを書いている私の横で、内科の若いナース二人が
ペラペラと耳障りなことを喋っている。
一人はナース4年目、もう一人は新人ナース。
他のナースたちは現在、介護が必要な患者さんたちの
病室へ行っている。
きっとあと20分ほどは、ステーションに帰って来ないと思う。
「西崎先生は、陸都先生と手塚先生と、高校の同級生だったんでしょ。」
「ええ、、、」
「その当時から、あの二人、モテていたんでしょうね。
高校時代から、陸都先生とお付き合いをしていたの?」
「高校の時は、あまり接点がなかったから、、、」
私は、PCと自分のペン先を往復して見ながら答えた。
「あんなにモテるんですもの、心配でしょう?」
嫌な声色になってきた。
「別に、、、」
「西崎先生、冷たいもんねぇ。」
新人ナースが、どう言うわけかタメ口で言う。
「陸都先生、嘆いてたよ。
うちの奥さんは冷たいって、、、自分が合コンに行っても、
可愛いナースちゃんたちと飲みに行ったりカラオケに行ったりしても、
やきもちひとつ焼いてくれないって。
愛されてないのかな〜って。
可愛いですよね、陸都先生って。」
吐き気がするような話だ。
「西崎先生が、陸都先生をいらないって言うんだったら、私がもらっちゃおうかな。」
新人ナースが、いけしゃあしゃあと言った。
「どうして、そこであなたにもらってもらわないと、いけないのかしらね。」
私はレポートの手を休めることもなく、新人ナースに反論した。
自分を落ち着かせながら。
「え〜っ、冗談ですよ。
ちょっと言っただけですよ。
西崎先生が、少しも怒られないから、もしかしたら、お友達みたいなのかなって。」
あんた、頭悪すぎでしょ。
と心の中で毒づいた。
「先生、もっと陸都先生に優しくしたほうが、いいんじゃないですかぁ。
そしたら、合コンに行ったり、キャバクラに行ったり、他の女性と遊ぶことも
なくなるんじゃないですか?
あれじゃ、独身と一緒ですよぅ。」
「遊ぶって、どういうこと?
他の女性と遊んでいるって、私は知らないのだけど。」
またもや、頭の中に’平常心’という言葉をこだまさせながら、レポートを
書くふりをして、尋ねた。
「飲みに行ったり、カラオケに行ったりしていること?みなさんと。」
「それもだけど、この間、呼吸器科の、、、」
「ちょっと、アイちゃんやめなさいって。喋りすぎ。」
ナース4年目が、新人ナースのおしゃべりを遮った。
「ええ〜っ、有名な話だから、西崎先生の耳に入るのも、すぐです〜。」
有名な話、、、噂が広まっているということ?
「呼吸器科の安西先生、知ってます?」
「ご存じですか?でしょ。」
聞くに堪えないタメ口を訂正した。
可愛いと思っているのか、口を尖らせて、頬を膨らませ、渋々訂正した。
「あのセクシーでチョウ美人なバツイチ先生。」
「あなたと私の評価は違うけど、存じ上げています。」
「この間、勤務明けに二人で安西先生の車で帰って行ったんですよね。
助手席に陸都先生が乗って。
安西先生はオンコールじゃなければいいのにって、言いながら。。。」
安西先生が、陸を気に入ってよく誘っているのを知っている。
陸のことを、私と同じように陸ってプライベートでは呼んでいるのも
知っている。
「そしたら、、、オンコールで安西先生が呼ばれたらしくって、
また、二人で仲良く、安西先生の車で病院へ戻って来たんですって。
病院から帰ってから、5時間も経っていたのに、安西先生も陸都先生も
帰った時と同じ服だったんですって。
陸、楽しかったわ。今度はオンコールじゃない日にね。
慌ただしくって、、、」
「。。。。。。」
「どう思います、、、、ぷんぷんでしょう?」
新人ナースの歪んだうれしそうな顔が、見ていなくてもわかる。
私になんと言わせたいのか、、、
いい加減にして、今は勤務中でしょう!と声をあげそうになったその時
「野村さん!!
いい加減になさい!!
くだらない話をする暇があったら、仕事をなさい。
明日の引き継ぎのための準備は終わったの?あなたが夜勤の時は
仕事が中途半端で、引き継ぐ人も毎回大変なのよ。明日もそうなら主任に報告するわよ。
加藤さんも、野村さんを指導する立場なら止めなさい。
そんな、嫌な噂を西崎先生にわざとのように言うなんて。」
ベテランナースの今藤さんが、怒り心頭に達したように新人ナースを叱責した。
問題児の新人ナースは、今藤さんが怖いのかサッと起立すると、はいと返事して
加藤さんと、バックに行こうとした。
「野村さん、、、あなたは西崎先生に謝りなさい。
そんな噂で、先生に嫌な思いをさせて。」
「今藤さん、立ち聞きですかぁ。」
どこまでも空気が読めない新人ナースだ。
「ねぇ、、、」
私は新人ナースの名前も呼びたくもなく、声をかけた。
「きっと私のためを思って、そういう話をしてくださったと思うの。
でも、本当かどうかは直接、本人に聞かないとね。
この人がこう言っていたけどどうなのって私が言うのは、不確かよね。
今から、夫に電話をしますから、その話って本当ですかって、尋ねて。
今藤さん、3分間だけブレークタイムをください。
それと、最後に奥さんに捨てられたら私がもらってあげますって。。。」
「えっ、えっ、、なんで私が、、、」
新人ナースは、私の態度に焦り出した。
そんなことは構わずに、私は寝ているであろう陸に電話をかけた。
多分、オンコールの条件反射のように陸は起きるはずだ。
「陸、、、新人ナースが、私にとって面白くもない話をしてくれたの。
私のためだと言って。それが私のためかどうか、知りたいから
新人ナースから話をきいて。。。」
真っ青になっている新人ナースに、無理やり携帯を持たせると、
何も話せなく
訳がわからない陸の’もし、もし、、、’と言う声ばかりが聞こえた。
「尋ねて、、、今私に話したことを話すだけでいいから。」
「、、、、、ごめんなさい。」
新人ナースは、そう言って通話を切ると、私に謝りながら携帯を返した。
ちょっと
やりすぎかと思ったが、こうでもしないと、私への嫌がらせが続きそうな
気がした。
「今藤さん、申し訳ございませんでした。」
「いえ、この二人への監督不十分でこちらこそ、申し訳なかったです。
あなたたち、二人とも明日は残って、師長さんから話があると思うわ。
今は、仕事に戻ってください。」
そうやって
私の長い夜勤は終わった。
私は内科1病棟にいた。
初期研修でいろいろな分野を研修してきて、来年からは専門医を
目指して後期研修に入る。
陸も私も真摯に研修に取り組み、先を見て勉強を進めていった。
来年もこの母校の附属病院に受け入れてもらえる。
2年間の研修医生活。
すれ違いの日々だった。
手塚くんのせいばかりではなく、蓄積した疲労と、いつの間にか
薄れていったお互いへの思いやりのせいで、私たちの不協和音が
始まったのだろう。
ひたすら冷静を装ってはいるが、陸のことを好きで、私に嫉妬心を向ける
女性たちには辟易としていた。
かと言って、今日のように陸を追い詰めるようなことは、したことがない。
今日が初めてだった。
陸のことを信じてはいるが、陸も男だ。
他の人に目が行ったり、たまには、私以外の女性と付き合って、みたいのではないだろうか。
陸が、断じて浮気はしないと言うのなら、そうかもしれない。
けど、
陸からの私への愛情を、何の不安もなく信じることができない自分もいた。
今も
レポートを書いている私の横で、内科の若いナース二人が
ペラペラと耳障りなことを喋っている。
一人はナース4年目、もう一人は新人ナース。
他のナースたちは現在、介護が必要な患者さんたちの
病室へ行っている。
きっとあと20分ほどは、ステーションに帰って来ないと思う。
「西崎先生は、陸都先生と手塚先生と、高校の同級生だったんでしょ。」
「ええ、、、」
「その当時から、あの二人、モテていたんでしょうね。
高校時代から、陸都先生とお付き合いをしていたの?」
「高校の時は、あまり接点がなかったから、、、」
私は、PCと自分のペン先を往復して見ながら答えた。
「あんなにモテるんですもの、心配でしょう?」
嫌な声色になってきた。
「別に、、、」
「西崎先生、冷たいもんねぇ。」
新人ナースが、どう言うわけかタメ口で言う。
「陸都先生、嘆いてたよ。
うちの奥さんは冷たいって、、、自分が合コンに行っても、
可愛いナースちゃんたちと飲みに行ったりカラオケに行ったりしても、
やきもちひとつ焼いてくれないって。
愛されてないのかな〜って。
可愛いですよね、陸都先生って。」
吐き気がするような話だ。
「西崎先生が、陸都先生をいらないって言うんだったら、私がもらっちゃおうかな。」
新人ナースが、いけしゃあしゃあと言った。
「どうして、そこであなたにもらってもらわないと、いけないのかしらね。」
私はレポートの手を休めることもなく、新人ナースに反論した。
自分を落ち着かせながら。
「え〜っ、冗談ですよ。
ちょっと言っただけですよ。
西崎先生が、少しも怒られないから、もしかしたら、お友達みたいなのかなって。」
あんた、頭悪すぎでしょ。
と心の中で毒づいた。
「先生、もっと陸都先生に優しくしたほうが、いいんじゃないですかぁ。
そしたら、合コンに行ったり、キャバクラに行ったり、他の女性と遊ぶことも
なくなるんじゃないですか?
あれじゃ、独身と一緒ですよぅ。」
「遊ぶって、どういうこと?
他の女性と遊んでいるって、私は知らないのだけど。」
またもや、頭の中に’平常心’という言葉をこだまさせながら、レポートを
書くふりをして、尋ねた。
「飲みに行ったり、カラオケに行ったりしていること?みなさんと。」
「それもだけど、この間、呼吸器科の、、、」
「ちょっと、アイちゃんやめなさいって。喋りすぎ。」
ナース4年目が、新人ナースのおしゃべりを遮った。
「ええ〜っ、有名な話だから、西崎先生の耳に入るのも、すぐです〜。」
有名な話、、、噂が広まっているということ?
「呼吸器科の安西先生、知ってます?」
「ご存じですか?でしょ。」
聞くに堪えないタメ口を訂正した。
可愛いと思っているのか、口を尖らせて、頬を膨らませ、渋々訂正した。
「あのセクシーでチョウ美人なバツイチ先生。」
「あなたと私の評価は違うけど、存じ上げています。」
「この間、勤務明けに二人で安西先生の車で帰って行ったんですよね。
助手席に陸都先生が乗って。
安西先生はオンコールじゃなければいいのにって、言いながら。。。」
安西先生が、陸を気に入ってよく誘っているのを知っている。
陸のことを、私と同じように陸ってプライベートでは呼んでいるのも
知っている。
「そしたら、、、オンコールで安西先生が呼ばれたらしくって、
また、二人で仲良く、安西先生の車で病院へ戻って来たんですって。
病院から帰ってから、5時間も経っていたのに、安西先生も陸都先生も
帰った時と同じ服だったんですって。
陸、楽しかったわ。今度はオンコールじゃない日にね。
慌ただしくって、、、」
「。。。。。。」
「どう思います、、、、ぷんぷんでしょう?」
新人ナースの歪んだうれしそうな顔が、見ていなくてもわかる。
私になんと言わせたいのか、、、
いい加減にして、今は勤務中でしょう!と声をあげそうになったその時
「野村さん!!
いい加減になさい!!
くだらない話をする暇があったら、仕事をなさい。
明日の引き継ぎのための準備は終わったの?あなたが夜勤の時は
仕事が中途半端で、引き継ぐ人も毎回大変なのよ。明日もそうなら主任に報告するわよ。
加藤さんも、野村さんを指導する立場なら止めなさい。
そんな、嫌な噂を西崎先生にわざとのように言うなんて。」
ベテランナースの今藤さんが、怒り心頭に達したように新人ナースを叱責した。
問題児の新人ナースは、今藤さんが怖いのかサッと起立すると、はいと返事して
加藤さんと、バックに行こうとした。
「野村さん、、、あなたは西崎先生に謝りなさい。
そんな噂で、先生に嫌な思いをさせて。」
「今藤さん、立ち聞きですかぁ。」
どこまでも空気が読めない新人ナースだ。
「ねぇ、、、」
私は新人ナースの名前も呼びたくもなく、声をかけた。
「きっと私のためを思って、そういう話をしてくださったと思うの。
でも、本当かどうかは直接、本人に聞かないとね。
この人がこう言っていたけどどうなのって私が言うのは、不確かよね。
今から、夫に電話をしますから、その話って本当ですかって、尋ねて。
今藤さん、3分間だけブレークタイムをください。
それと、最後に奥さんに捨てられたら私がもらってあげますって。。。」
「えっ、えっ、、なんで私が、、、」
新人ナースは、私の態度に焦り出した。
そんなことは構わずに、私は寝ているであろう陸に電話をかけた。
多分、オンコールの条件反射のように陸は起きるはずだ。
「陸、、、新人ナースが、私にとって面白くもない話をしてくれたの。
私のためだと言って。それが私のためかどうか、知りたいから
新人ナースから話をきいて。。。」
真っ青になっている新人ナースに、無理やり携帯を持たせると、
何も話せなく
訳がわからない陸の’もし、もし、、、’と言う声ばかりが聞こえた。
「尋ねて、、、今私に話したことを話すだけでいいから。」
「、、、、、ごめんなさい。」
新人ナースは、そう言って通話を切ると、私に謝りながら携帯を返した。
ちょっと
やりすぎかと思ったが、こうでもしないと、私への嫌がらせが続きそうな
気がした。
「今藤さん、申し訳ございませんでした。」
「いえ、この二人への監督不十分でこちらこそ、申し訳なかったです。
あなたたち、二人とも明日は残って、師長さんから話があると思うわ。
今は、仕事に戻ってください。」
そうやって
私の長い夜勤は終わった。