ピアニスト令嬢とホテル王の御曹司の溺愛協奏曲
はじめは、練習のしすぎで疲れてしまったせいだろうと思った。
早めに体を休めれば問題ないだろうと安易に捉え、気軽な気持ちで翌日の練習に臨んだ。
ところが、その日も昨日と同じところで躓いてしまう。
指があらぬ方向に固まって意図せぬ鍵盤を叩いてしまい、不快に濁った音が音楽室に響いた。
「何よ、これ……」
信じられない思いで、呆然と自分の白く長い指を見下ろす。
私が弾いていたのはコンクールの課題曲として指定されるほどの曲なので難曲であることには違いないのだが、繰り返し練習して完璧に自分のものにしている。
だから、普通にしていれば私がこんなミスを犯すなんてありえない。
……絶対に、ありえないのだ。
「きっと何かの間違いよ。もう一度弾いてみよう」
本能的に感じた不吉な予感を、頭を振って必死で追い払う。
頬をひくつかせながら、それでも必死に平静を装った。
大きく深呼吸して心を落ち着かせ、もう一度鍵盤に手をおろす。
……今度こそ、絶対に大丈夫だから。
あれだけの練習を積み重ねてきたこの私が、こんな初歩的なレベルのミスを繰り返すわけがないのだから……。
そう信じたかった私の願いは、しかしすぐに完膚なきまでに打ち砕かれることとなる。
「はははっ……! 私の指、馬鹿になったんじゃあないの?」
また同じところで躓いたと気付いた瞬間、いけないことと知りつつも、私は激情のままに鍵盤に両手を叩きつけた。
不協和音と私の乾いた嗤いが混ざり合い、不気味に空気を震わせる。
「嘘でしょう!? どうして今、こんなことが起きるのよ? 本番はもうすぐだっていうのに……!」
信じられないし、信じたくもない。
だが、事実として……何度正確な演奏を試みても、私は以前のように弾くことができなくなっていた。
早めに体を休めれば問題ないだろうと安易に捉え、気軽な気持ちで翌日の練習に臨んだ。
ところが、その日も昨日と同じところで躓いてしまう。
指があらぬ方向に固まって意図せぬ鍵盤を叩いてしまい、不快に濁った音が音楽室に響いた。
「何よ、これ……」
信じられない思いで、呆然と自分の白く長い指を見下ろす。
私が弾いていたのはコンクールの課題曲として指定されるほどの曲なので難曲であることには違いないのだが、繰り返し練習して完璧に自分のものにしている。
だから、普通にしていれば私がこんなミスを犯すなんてありえない。
……絶対に、ありえないのだ。
「きっと何かの間違いよ。もう一度弾いてみよう」
本能的に感じた不吉な予感を、頭を振って必死で追い払う。
頬をひくつかせながら、それでも必死に平静を装った。
大きく深呼吸して心を落ち着かせ、もう一度鍵盤に手をおろす。
……今度こそ、絶対に大丈夫だから。
あれだけの練習を積み重ねてきたこの私が、こんな初歩的なレベルのミスを繰り返すわけがないのだから……。
そう信じたかった私の願いは、しかしすぐに完膚なきまでに打ち砕かれることとなる。
「はははっ……! 私の指、馬鹿になったんじゃあないの?」
また同じところで躓いたと気付いた瞬間、いけないことと知りつつも、私は激情のままに鍵盤に両手を叩きつけた。
不協和音と私の乾いた嗤いが混ざり合い、不気味に空気を震わせる。
「嘘でしょう!? どうして今、こんなことが起きるのよ? 本番はもうすぐだっていうのに……!」
信じられないし、信じたくもない。
だが、事実として……何度正確な演奏を試みても、私は以前のように弾くことができなくなっていた。