ピアニスト令嬢とホテル王の御曹司の溺愛協奏曲
 私にそんな突然の事件が巻き起ころうと、三次審査の日は待ってくれない。
 問題の根本的な解決には至らぬまま、私は決戦当日を迎えた。

 私が恐ろしいまでの焦燥と不安に苛まれていたことは言うまでもない。
 だが、これはこのコンクールで優勝する人生でたった一度のチャンスなのだ。最後まで諦めるものかという意地と執念で、とりあえず残された僅かな時間の中で出来るだけの修正は試みてきた。

「昨日までのことが全て夢だったら良いのに……」

 本番前のひりつくような緊張の中で弱気な自分が頭をもたげてきたのか、そんな詮無い妄想に苛まれる。
 ……いや、本当に夢だったのかもしれない。あれは私の疲れた頭が見せた悪夢にすぎなくて、今日舞台に立てばいつも通りに弾けるのかもしれない。
 実力さえ出せれば良い成績はついてくるはず。だって、私はこれ以上ないほどに練習を重ねてきたのだから。
 そうよ、そうであるに違いないわ……。

 だが、私の淡い期待は脆くも崩れ去った。
 結果は惨敗。本番でも練習と同じように指がおかしく曲がってしまい、不本意な演奏しか出来なかったのである。
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