冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
仮面夫婦のはじまり
「宇一さん、説明して。どうして私の考えたスイーツが、あなたの新作として記事に載っているの?」
恋人たちが楽しいひとときを過ごしているはずのクリスマスを、一週間後に控えた、十二月十八日。
グレーで統一された家具が並ぶマンションの一室で、発売されたばかりの雑誌を片手に詰め寄る。
緩くパーマをかけた茶髪にシンプルな白いシャツ、平然とした表情でソファに足を組むガタイの良い二十八歳の男性は、紛れもなく私の彼氏である向坂 宇一だ。
一方の私、真宮 藍は、肩甲骨まで伸ばした黒髪をひとつに縛り、小柄で、いわゆるぽっちゃり体型な二十三歳。怒りで釣り上がった二重の瞳が、ベランダの窓に映し出されていた。
「なんの話だ? 全く見当がつかないよ」
「冗談はやめて。あなたが今月号Delizart(デリザート)の特集記事で、私が考案したスイーツを勝手に自分のものだと発表したでしょう?」
Delizart(デリザート)は、話題のグルメを世間に発信する人気雑誌である。
宇一さんは私が二十歳から勤める有名洋菓子店《アンジュ》のオーナーパティシエで、新作スイーツ特集の取材を受けていた。
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