冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


 日本から離れた異国の地で、母国語が聞けるとは思わなかった。どうやら、彼も日本人らしい。

 恐怖でパニックになっていてよく状況が掴めなかったものの、さっきまで私は違法の薬を売り付けられていたのか。

 彼が通りかかってくれなかったら、どうなっていたんだろう。想像するだけで身の毛がよだつ。


「助けてくれてありがとうございます。なぜ声をかけてくださったんですか」

「バイクで路地を突っ切ろうとしたら、明らかに地元の住人じゃない女性が、面倒そうな男に絡まれているのが見えたからな。さすがに素通りはできないだろ」


 自らの危険も顧みず、見ず知らずの私を助けてくれるとは、なんて心優しい人なんだろう。

 天は人に二物を与えないというけれど、この人は外見の良さも人格の良さも兼ね備えている完璧超人だ。


「それで? 君はどこへ向かうつもりだったんだ?」

「この路地を超えて、少し歩いた先にあるオペラハウスです」

「ああ、歌劇場か。どうして徒歩で? 女性がひとりじゃ危ないだろ。地下鉄やバスもあるのに」

「目当てのカフェでモーニングを食べたくて……近場だったので、歩こうかなって安易な考えでした」


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