冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
危機感のなさを痛感して先程の恐怖が蘇り、つい目が潤む。
彼はそれ以上咎めようとせず、側に落ちていた私のスマートフォンを拾ってくれた。
投げつけられて落下した衝撃で運悪く画面が割れてしまっていたものの、中のデータはそのままで、なんとか使える。命に比べたら安いものだ。
そのとき、彼がバイクの椅子を上げて、ヘルメットを取り出した。当たり前のように目の前に差し出されて、目を丸くする。
「俺もちょうど目的地が同じなんだ。乗せてやる」
「えっ、申し訳ないですよ。助けてもらえただけで充分です。甘えられません」
「遠慮をしないで素直に頷いておけ。また絡まれるぞ」
その一言に、うっと怯む。
おずおずと受け取りながら、自分の体型が改めて目に入った。
宇一さんに振られてから、ストレスのせいで食欲が増し、さらに体重が増加した。
コートで体のラインは隠せてはいるけれど、標準よりもかなり太っていると一目で分かるぷくぷくの顔や指、足が、急に恥ずかしい。
「わ、私、すごく重いですし……」
「君をひとり乗せたくらいなら、俺のバイクは問題ないよ」