冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


 たしかに、SNSのアカウントは、傷心旅行でスマートフォンの画面が割れてデータが初期化されたのをきっかけにアカウントを作り替えた。

 しかし、メールアドレスは行きつけのアパレルショップの会員登録などに利用していたため、引き継いで使っていたのだ。

 それにしても、あり得ない間違いに動揺する。その心中を察したらしい宇一さんが口を開く。


「うまく誤解してくれて良かった。俺からの連絡だと知れば、来ないだろ?」

「わざと名乗らずに騙したの?」

「人聞きが悪いな。俺は『“久我”で予約をした』としか打っていない。勝手に勘違いしたのはそっちだろ? 冗談半分で送ったけど、本気で信じ込むとは予想外だった。夫婦のくせに互いのメールアドレスも知らないのか?」


 簡単な罠に引っかかったと気づき、自分の落ち度に恥ずかしくなった。

 嘘だと分かった以上、ここに長居をする必要はない。


「帰るわ。もう連絡はしないで」

「おい、待てよ。怒っているのか? ごめんごめん、ふざけすぎた。メールの件は謝るけど、本当に藍と話したかったんだ」


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