冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


 席を立って去ろうとするが、腕を掴まれて引き止められる。男性の力には到底敵わず、振りほどけない。

 後悔と苛立ちで感情がぐちゃぐちゃになっているけれど、騒ぎを大きくしないよう、必死に冷静になろうと努めた。


「私に話すことはない。この前も、口説くとかなんとか冗談を言っていたけど、今さらどういうつもり?」

「言葉の通りだよ。俺たち、ひどい別れ方をしただろ? 時が経って気持ちが落ち着いただろうから、また仲良くできないかな」

「正直に言うと、本気であなたに引いているわ。元々友達でもないし、私は今、既婚者だって知っているでしょう?」

「夫の有無に関係があるのか? ヨリを戻そうっていうわけじゃないよ。遊びだと振り切って付き合うのはアリだろ?」


 だめだ、この人には会話が通じない。五分ほど経過しても、ずっと平行線である。

 腕を掴む指に力が込められて、逃がす気のない彼に、つい顔を歪めた次の瞬間だった。

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