冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


 すぐ側の窓ガラスを、外から叩かれる。

 ふたり揃って視線を向けた先にいたのは、冷え切った表情の椿さんだ。

 心臓が大きく音を立てて、緊張と不安に駆られていた体の力が抜け、涙が出そう。


「お客様、お召し物が……」

「すみません。店内を汚さないよう、すぐに出ますので」


 店に入ってきた椿さんと女性店員の会話が耳に届き、はっとする。雨に降られて、大事な商談用に仕立てた高級なスーツも髪も、雫が滴るほど濡れていた。

 声をかける暇もなく、椿さんは宇一さんの手を捻りあげ、私を庇って間に立つ。


『軽々しく触るな。悪癖が治らないなら、一生他の女を追いかけていろ』


 わざと流暢な英語で罵倒をしたのは、周りの客や店員に聞かれるのを見越しているからだろうか。

 英語がわからない宇一さんは、ただ戸惑った表情で固まっている。


「二度と藍に近づくな」


 震えるほど低い声で日本語のトドメを刺した椿さんに、さすがの宇一さんも一瞬怯んだ。

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