冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
チャペルの前で対峙したときは、仕事中ということもあり、一度目の忠告を紳士モードで丁寧にしていたため、微笑みの下に隠されていた鋭い一面に動揺している。
手を取られて、その場から連れ去られるように店を出た。
外は相変わらず雨が降り続いている。
「悪いけど、こんな格好じゃタクシーには乗れない。アイツがいるこの店で雨宿りする気はないし、ホテルに停めてある車まで走るぞ」
「わ、わかった」
導かれるまま、お互い無言で雨の中を走った。
やがて、ランコントルホテルの駐車場に着き、見慣れた黒い外車の助手席のドアを開けられる。
「このまま座ったら座席が濡れちゃう」
「いいから」
助手席に乗り込む私を見届けた後、彼も運転席へまわって乗車した。
エンジンをつけないまま背もたれに体を預け、ダークブラウンの濡れた前髪をかきあげている。
雨の中、わざわざ私を追いかけてきてくれたんだ。近場のレストランだったため、車に乗る余裕もなく駆けつけてくれたんだと察して胸が熱くなる。