冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
鋭い流し目と視線が合い、体が震えた。
「説明してくれ」
これは完全に怒っている。忙しい彼に迷惑をかけてしまったのだから当たり前だ。
叱られる覚悟をして、弱々しく言葉を紡ぐ。
「昼に、メールで食事に誘われて、『“久我”で予約をした』って書いてあったから、てっきり椿さんだと勘違いをしたの。今夜はちょうど仕事を終えて帰る予定の日だったし」
「あの男の企みと偶然が重なったわけか」
涙が出そうになって、必死に堪える。すべて自分の落ち度なのに泣いてはダメだ。
そうわかっていても、宇一さんが目の前に現れたときは怖かった。掴まれた腕の痛みがフラッシュバックして声が震える。
「ごめんなさい……今考えれば、おかしいってわかるのに、椿さんから誘われたと疑いもしなかった」
そのとき、隣から手が伸ばされて髪をとかれる。走ってボサボサになってしまったのを気にする余裕もなかったと気づく。