冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
心のままに答えたはずが、椿さんは目を丸くした。
動きを止めてこちらへ視線を向けた彼は、ドッキリを仕掛けられた子どもみたいな顔をしている。
「何? 変なこと言ったかな」
「いや……そんな素直に認められると調子が狂う」
彼の反応に、自分が四六時中椿さんを考えているとこぼしたのを自覚して、頬が熱くなった。
言われてみれば、頭の中の大半を椿さんが占領していた事実に気づく。
仲の良い女友達や家族以外に頻繁に連絡を取るのは椿さんくらいだから、メールの相手を勘違いしてしまったと言い訳をしようとしたけれど、慌てて濁すのも照れ隠しのようで恥ずかしい。
結局黙り込む私に、椿さんもどこか落ち着かない様子で「風邪をひく前に帰るぞ」とアクセルを踏んだ。
やがて、三十分ほど走り、レジデンスに到着した。
七月でやや汗ばむほどの気温であるため、体温を奪われないのは救いだが、雨で濡れた服は湿っていて気持ち悪い。
「シャワーを浴びたら、声をかけてくれ」
ネクタイを緩める彼に、そう声をかけられる。当たり前のようにお風呂を譲ってくれる気遣いが嬉しいけれど申し訳ない。