冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
心の壁を壊して


「三日後にパリへ出張?」

「ああ。ラスベガスのホテルの内装をデザインする担当との打ち合わせがあるんだ。もうほぼ建設は終わっていて、スタッフも揃っているんだけど、細かい調度品の質や色味はリモートワークじゃ伝わりきらないからな」


 七月十六日、帰りの車の中で、彼が切り出した。

 十二月のオープンに向けて、最終調整に入っているようだ。指揮を任されている椿さんは、これから海外への出張が増えていくらしい。


「パリといえば、私も製菓の研修で昔行ったよ」

「現地で働いた経験もあるんだよな?」

「そうそう。お世話になった恩師がいるの」


 専門学校を卒業する前の研修と、アンジュを辞めてからの二年間を過ごしたパリは、思い出の場所だ。

 話によると、パリへの出張は、現地の視察を含めてニヶ月かかり、帰国は九月二十一日になるそうだ。

 ニヶ月も広い部屋にひとりか。

 今まではお互いの動きを気にしなかったけれど、一緒に通勤をしたり食事をとったりするうちに、生活を共にするのが当たり前になってきていた。

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