冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
なんだか、最近椿さんに撫でられるようになった。
一体どういうつもりか、心の中を察するのは難しいが、甘い気持ちを向けられていると勘違いしそうだ。
仕事でもプライベートでも、周囲の人を全て虜にしてしまう彼は、本気になったら危ない。
仮面夫婦の掟がある以上、向こうが本気にならないと確定しているのに、こちらが愛してしまったら傷つく未来が見えている。
そしてパリに発つ当日、空港に向かう彼を見送って出勤したとき、カフェのペストリーシェフから思わぬ提案があった。
「久我さん。この大会に参加してみないか?」
持っていた資料には、二年に一度開催される、パティシエの世界大会のロゴが載っている。いつか、自分の実力を試してみたいと考えていた。
応募資格は“五年以上の実務経験があること”なので、クリアしている。
一次審査と二次審査を通過した国内予選の金賞受賞者が、日本代表チームとして来年開催予定の世界大会に進めるのだ。
まさか、声をかけてくれるとは想像していなかったので、突然の話にただ驚くしかできない。