冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした

 気にかけて欲しかったわけではないけれど、気づいてくれたのが嬉しい。


「そんなにわかりやすいかしら」

『ああ。元気がない』

「心配しないで。少し弱気になって、自信がなくなっちゃっただけなの」


 ゆっくりと言葉を紡ぎながら、講習会に参加をした事情を説明する。

 椿さんは宇一さんをよく思ってはいないし、またトラブルに巻き込まれるかもしれないと余計な心配をかけるのは避けたいので、なんとなく元彼と再会したくだりは省いた。

 現状を理解した椿さんは、力強く告げる。


『経験も熱量もそれぞれ違う。周りと比べて落ち込むのは当たり前だ』

「ありがとう。でも、椿さんは落ち込んだりしないでしょう?」

『まあな。でも、しないというより、自然とそうなった。もともと久我一族のはぐれ者で、劣等感しかなかったからな。見返してやるっていう精神の方が強い。性格が捻くれているんだ、俺は』


 自虐っぽい言い方はわざとだろう。仕事へ真摯に向き合う姿勢は、芯の強さの現れだ。

< 128 / 202 >

この作品をシェア

pagetop