冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


「言いかけてやめられると気になるよ。教えて?」

『ダメ。そろそろ時間だ。またな』

「あっ、逃げる気ね」


 追求するも、『頑張れよ、奥さん』とからかいまじりに電話を切られた。

 不思議な人。いつも私の頭の中をいっぱいにして、去ってしまう。

 でも、おかげで楽になった。私は私で良いんだと肩の荷が降りる。

 改めて、椿さんはカッコいい。容姿だけじゃなくて、考え方や生き様すべて。

 仕事に誇りを持って、一族の責任を背負いながら自分だけの人生を歩んでいる。

 この胸の高鳴りや緊張は、憧れからくるものなんだろうか。有無を言わさずに、強烈な魅力に惹かれてしまう。

 彼が側にいてくれれば、なんでもできるとさえ思える。

 私も、椿さんにとってそう思われる唯一の存在になりたい。

 そんなおこがましい願いが脳裏をよぎって、急いでかき消す。

 今、なにを考えた? 私たちは情のない仮面夫婦なのに、多くを望んだら、以前の鋭い視線で拒絶されるわ。

 そっと気持ちを押し込めて深呼吸をした。

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