冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


 頭の中を仕事モードに切り替え、メモ帳を開く。

 スケッチブックに落書きをするようにサラサラとスイーツのデザインを描きながら、ペンが走るのが楽しくて仕方がなかった。

 そうだ。ずっと忘れていた。

 周りと実力を比べる前に、私はお菓子を作るのが好きなんだ。

 時間も忘れて没頭する中で、ひとつのレシピが完成した。大会で提出するチョコレートケーキだ。

 カラフルで目を引く小さな試食用のケーキから、高さのある飴細工まで描き上げた。五枚にも及ぶメモを台紙からちぎり、無くさないようにお気に入りの手帳に挟む。

 一次は書類審査と試食審査である。本部への提出締め切りは十月中旬で、まだニヶ月ほどあった。

 メモをもとに作り込んで、絶対二次へ進んでみせる。誰にも負けたくない。宇一さんにも、自分にも。

 それから、仕事を終えた後に職場を借りて、実践に励む日々が続いた。ときには上司にアドバイスをもらいながら、レシピを調整していく。

 そして、あっという間に約一ヶ月の時が経ち、九月十九日、金曜日の朝となる。

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