冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


 やっと自分の作りたいスイーツ像が固まってきた頃、従業員の集まるラウンジで、女性スタッフの噂話が耳に入った。


「ねえ、知ってる? 久我さん、今朝帰って来たんだって」

「見た見た。クラブフロアで得意先との打ち合わせをしてたわ。相変わらず綺麗な人よね」


 久我さんというワードに、つい食いつく。

 総支配人である樹さんは、クラブフロアに留まらず、自らフロントに立ったり、新人の教育をしたりしている。

 もしかして、椿さんの話? 帰ってくるのは明後日の二十一日のはずだ。予定が早まったという連絡もなかった。

 スマートフォンを立ち上げて、SNSで【出張の予定、変わったの?】と尋ねるが、忙しいのか既読がつかない。

 不確かなモヤを抱えたまま退勤の時間となり、その足でクラブフロアに向かう。

 そこに、椿さんの姿はなかった。彼の同僚に話を聞くと、数分前に退勤したという。

 やっぱり、帰ってきているの? それなら一言連絡をくれてもいいのに。未だSNSでの返信はない。


< 132 / 202 >

この作品をシェア

pagetop