冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


「そういえば、人と待ち合わせているって言っていましたよ。時間を気にしているようでした」

「待ち合わせ?」

「はい。たしか、ホテルの近くのレストランって」


 同僚の話に、首をかしげた。

 もしかして、仕事の一環で外食の予定があったのかしら。接待ならば、急ぎでない私からの連絡に答える優先順位は低い。

 駅までの道の途中にあるレストランなら、帰路につくがてら、仕事モードの彼を覗けるかな。

 そんな好奇心も抱きつつ、帰っていたそのとき、視界に飛び込んできたのは予想外の光景だった。

 大通りに面した大きな窓から見えるのは、窓際のテーブルで対面する椿さんと女性の姿だ。あろうことか、相手は瑠璃川さんである。

 本当に椿さんを見かけたのも驚いたけれど、それ以上に動揺が強い。

 待ち合わせって、彼女との約束だったの?

 てっきり同性のビジネスマンを想像していただけに、衝撃で足が震えた。

 ハルナホールディングス主催のパーティで、椿さんにキツいお灸を据えられた瑠璃川さんは、ビジネスパートナーの座を失ったはずだ。

 つまり、ふたりが会っているのは仕事ではない。

< 133 / 202 >

この作品をシェア

pagetop