冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
「そういえば、人と待ち合わせているって言っていましたよ。時間を気にしているようでした」
「待ち合わせ?」
「はい。たしか、ホテルの近くのレストランって」
同僚の話に、首をかしげた。
もしかして、仕事の一環で外食の予定があったのかしら。接待ならば、急ぎでない私からの連絡に答える優先順位は低い。
駅までの道の途中にあるレストランなら、帰路につくがてら、仕事モードの彼を覗けるかな。
そんな好奇心も抱きつつ、帰っていたそのとき、視界に飛び込んできたのは予想外の光景だった。
大通りに面した大きな窓から見えるのは、窓際のテーブルで対面する椿さんと女性の姿だ。あろうことか、相手は瑠璃川さんである。
本当に椿さんを見かけたのも驚いたけれど、それ以上に動揺が強い。
待ち合わせって、彼女との約束だったの?
てっきり同性のビジネスマンを想像していただけに、衝撃で足が震えた。
ハルナホールディングス主催のパーティで、椿さんにキツいお灸を据えられた瑠璃川さんは、ビジネスパートナーの座を失ったはずだ。
つまり、ふたりが会っているのは仕事ではない。