冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
あのふたり、私が知り合う前からもともと親交があったようだし、椿さんが嫌っているように見えて、食事をする仲だったのかな。
私の前だから、ビジネスで必要だから嫌々付き合っているというフリをしていただけ?
軽く食事を頼んだものの、喉を通るものに全く味を感じない。不安だけが募って、モヤモヤして仕方がなかった。
ダメだ。追いかけてしまった以上、気になって落ち着かない。
お手洗いに立って、その後化粧室に向かう。そして、鏡に映った自分に、はっとした。
心なしか寂しそうで元気がない。無意識に落胆した顔になっていた。どうしてこんなに感情が揺れているんだろう。
椿さんが、私に黙って女の人と会っていたのがショック?
認めたくない気持ちが腑に落ちて、動揺する。
次の瞬間、背後からひとりの女性が化粧室に入ってきた。鏡越しに目が合って、呼吸が止まる。
「る、瑠璃川さん」
思わず名前を口にすると、彼女も予想外だったらしく目を見開いた。
「あなた、いたの? 嘘。偶然じゃないわよね」